神奈川県相模原市の障がい者施設で起きた悲惨な事件には、本当に胸が痛む。身勝手な鬼畜が、何の罪もない39人に凶行を及ぼし、19人の尊い命が奪われてしまったのだ。就寝中の真夜中、しかも障がいを持つ無抵抗な方々だ。その無念さはいかばかりか。亡くなられた19人の方々のご冥福を心からお祈りするとともに、犯行に及んだ身勝手な鬼畜を絶対に許すことはできない。
連日報道されるこのニュースを、母は神妙な面持ちで見ていた。普段から陽気な母にしては口数がとても少ない。母なりに何かを感じているんだと、その顔つきからわかった。「車いすでの生活、息子やヘルパーさんの手を借りなければ生きていけない。つらいけど、そのつらさを笑顔にかえて生きているのだ。それなのに・・」そう思っているに違いない。私も同じ思いだから、その気持ちが痛いほど分かった。けしてきれいごとではない。私たちは、家族の支えはもちろん、社会の支えがあってこそ、生きていけるのだ。それなのに、この事件は私たちの平穏に生きようと努力している毎日を、不安な暗闇に一気に突き落とした。そんな思いにさせたのだ。
母がショートステイした特養ホームの玄関ドアも、外からは開かなかった。職員に名前と要件を伝えると、自動ドアを開いてくれる仕組みだ。認知症の患者さんの徘徊防止もあるが、外部から不審者の侵入を防ぐこともあるのだろう。しかし、今回の事件のように内部に詳しい者なら、侵入するのは容易だ。入居者が安心して生活できるよう、施設の運営には国や自治体もからみ、対策をお願いしたい。
さて、ショートステイ体験の続き。南の島から戻り、家に荷物を置くと、すぐさま車を走らせた。寂しがっているか、落ち込んでいるかと心配で仕方なかったのだ。しかしそれは杞憂だった。コミュニティスペースで、母はおばあさんと談笑の真っ最中。うまく話せない母が、そんな気配を微塵も感じさせずに、話に夢中だったのだ。「なんだよ、急いできたのに・・拍子抜けだ(笑)」(私の心の言葉)。でも、ものすごくホッとした。帰りの車の中で、母にショートステイの感想を聞いてみた。施設では夜中は担当者が2人しかおらず、トイレに行きたくて呼んでもなかなか来てくれなかった。そして何回もブザーを押したため、強い口調でたしなめられたとのこと。それは三晩泊ったうちひと夜の出来事だった。他は食事もおいしかったし、ゆっくり休めたし、おばあさんとも話しができ、「まあまあ良かった」というのが母の感想だった。「また行ってもらうかもよ」と言うと、「え・・。いやだけどしかたないか」と母はあきらめ顔で答えた。
事前に施設には、腎臓の薬を飲んでいてトイレが近いことを話していたのに、対応に不備があったのではないかと、ケアマネージャーに伝えておくと、一週間後、施設から連絡があった。施設ではさっそく該当の夜勤者に事情を聴いたとのこと。「そんなに強い口調で言っていない、手が足りなかったから」との夜勤者の話に、言った言わないではなく、入居者が不快な思いをした時点で自分の行動を反省すべきだと、その夜勤者を諭したとのことだった。この誠実な対応に、今後もその施設を利用しようと考えている。(第一部完)
====================
筆者:渋柿
昭和53年、母38歳で脳溢血。一命をとりとめたものの右半身麻痺、失語症に。
私は17歳から介護生活を開始。38年が過ぎた今も、在宅介護が続いている。
平成28年、母76歳、息子の私55歳。老々介護が間もなく訪れる。
====================
[写:hu album @fliker]