全国各地に伝わる珍しいおせち料理中でも、一番のインパクトがある珍しい料理ものと言えば和歌山のおせち料理「ぼうり」ではないでしょうか。「ぼうり」は里芋の中でももっとも大きな親芋を醤油や砂糖で甘辛く煮つけ、丸ごとお椀に盛り付けた料理です。お椀の中から巨大な里芋が顔をのぞかせる様子はインパクト抜群で、最初に見た人は必ずびっくりすること間違いなしです。
「ぼうり」の誕生のルーツは鎌倉時代後期、南北朝の時代にまでさかのぼります。幕府と権力争いをしていた後醍醐天皇の王子・大塔宮護良親王は、鎌倉幕府の追求を逃れて現在の和歌山県田辺市(旧大塔村鮎川地区)のあたりにたどり着きました。王子は鎌倉幕府の追跡を逃れるため、山伏の扮装に身をやつしていましたが、空腹を感じ地元の人たちに餅を所望しました。当時は山伏には物を与えてはならないという村の規則があったため、土地の人は王子の求めを断ります。しかし、その後餅を求めていた山伏姿の人物が後醍醐天皇の王子だったということを知った土地の人は深く恥じ入り、それ以来その行いを忘れないようにするため、正月に餅をついて食べるのをやめ、里芋でおせち料理を作ることにしたといいます。
こうした言い伝えのある「ぼうり」ですが、しっかりと濃厚な味付けがされているため、日持ちもするおせち料理には最適なものとして現代に受け継がれています。