6月21日から始まった鹿児島県・トカラ列島近海を震源とする群発地震は、1カ月が経過して活動が小康状態になった。しかし、詳しいメカニズムなどは依然不明で、「火山活動のマグマなどによって動いている可能性が考えられる」(政府地震調査委員会の平田直委員長)との声も上がる。震源域は既知の活火山がない「空白域」だが、専門家は「火山がないからといって、火山のことを考えなくてよいわけではない」と指摘し、観測体制強化の必要性を強調した。
屋久島と奄美大島の間に浮かぶトカラ列島。海洋研究開発機構の田村芳彦・上席研究員(火山学・岩石学)によると、プレート境界に沿って火山が線状に並ぶ「火山フロント」に位置し、北部の口之島、中之島、諏訪之瀬島は、気象庁の基準で過去1万年以内に噴火した「活火山」に分類される。一方、列島南部には同庁基準による活火山はないが、これまでの研究で最南端の横当島が1万年前ごろに噴火した可能性が高いとされる。同島を活火山と見なせば、諏訪之瀬島との間に「空白域」が117キロにわたって広がっていることになる。
田村さんらは2002年の論文で、地震計が整備されている東北地方での観測から、プレートの沈み込み帯で地下マントルの高温部が数十キロ間隔で「指」のように地殻内に貫入してマグマをつくり、火山を形成する「ホットフィンガー」の存在を指摘。東北や伊豆諸島などではこれに対応した間隔で火山が存在し、100キロを超えるような空白域はなかった。
田村さんは「もし、震源周辺海域の地下にホットフィンガーがあるとしたら」との前提で、「地下からマグマが上がってきていても、活火山がないのでガス抜きできない。その場合は大きな噴火が起きる可能性も」と指摘する。
ただ、「現時点ではきちんとした証拠がない。観測が一番重要だ」とも述べ、地下のマントルやマグマだまりの構造を検知する海底地震計の設置や音波探査の実施などの必要性を強調した。
田村さんは「不安をあおるつもりはないが、これまで活火山がなかったから火山のことは考えなくていいのではなく、その可能性を認識しておく必要がある」と話した。
