会津の晴れの日を彩る こづゆ

福島県の会津地方には「こづゆ」と呼ばれる郷土料理が伝えられています。こづゆは具沢山の汁物のような料理ですが、時には汁物というよりも煮物のような位置付けで酒と共に並べられることもあります。これは昔の酒宴の際に、供される料理には手を付けずに自宅へお土産として持ち帰り、その場では、こづゆを肴として酒を呑むという習慣があった名残りです。そのため小振りな器に盛られたこづゆは、宴の膳の中では他の料理とは違って何杯お代わりを申し出ても失礼にはならないことになっていました。

「こづゆ椀」もしくは「手塩皿」と呼ばれる会津塗りの浅い小さな器にこづゆを盛るのは「温かいうちに食べて何度もお代わりしてください」という会津のもてなしの心遣いです。今も尚、会津の正月や冠婚葬祭に欠かせないこづゆは、材料をまとめて包装したものがスーパーやお土産物店に並ぶようになりました。一見素朴な料理のように感じられるこづゆですが、歴史的に見れば会津地方で暮らしていた人々にとって実に贅沢な食べ物であると言えます。

海から遠く離れた内陸の地である会津では海産物は貴重品であり、主に新潟県を経由して届く干物がほとんどでした。会津の中でも地域によって違いはあるものの、こづゆは干したホタテ貝の貝柱を使って出汁を取ります。そこに一口大に切った人参や里芋、干し椎茸やきくらげ、糸こんにゃく、ぎんなん、豆麩(マメブ)と呼ばれる小さな丸い麩等の具材が入り、主に醤油で味付けがなされます。最後に塩漬けにして保存したワラビを添えたり、最近では練り物を加える等、作り手によって様々なバリエーションが見られますが「割りきれない、めでたい奇数」である七種類か九種類の具材を入れるのが伝統的なこづゆです。

濃い目の味付けになりがちな会津の料理の中では出汁と具材の風味を楽しむために薄目の味付けがなされることが多いことも、こづゆの特徴であります。朱塗りの器に海の幸と山の幸を共に盛り込んだこづゆは使う食材の種類が多いだけに調理に手間がかかりますが、彩り豊かな、晴れの日に相応しい郷土の味として現代に至るまで愛され続けています。

[写: Takeshi Kouno@fliker]

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