F-35なんて要らない!「アメリカ兵器離れ」トランプ氏の“懐柔策”で止められるか 日本にとってはいい話?

アメリカのトランプ大統領が自国兵器の輸出に関する事務手続きを簡略化します。各国に関税を課して貿易摩擦を是正しようとするなか、兵器輸出は推進したい考え。しかし、もはや「時遅し」かもしれません。

レーダーのカバーを輸入するのにも数年かかる制度を「改革」

 アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領は2025年4月9日、アメリカから外国へ兵器を輸出する際の事務手続きを簡略化する大統領令への署名を行いました。

 外国がアメリカ企業の製造する兵器を購入する場合、一般的にはアメリカ政府が設けた「FMS」(Foreign Military Sales/対外有償軍事援助)と呼ばれる制度を利用します。トランプ大統領はこのFMSの改革も狙いとしています。

 FMSは輸出の窓口をメーカーではなく、アメリカ政府(アメリカ国防安全保障協力局)としている点が特徴です。メーカーへの個別発注に比べて取引が大口化するため、価格を抑えられるほか、アメリカ政府が窓口となることで、アメリカ軍から教育や訓練の提供を受けられるというメリットがあります。

 反面、FMSを統括するアメリカ安全保障協力局の事務処理が追いつかないため、納入が年単位で遅れるといったデメリットも。また原則として当初見積もりで価格が固定されるため、為替の変動により支払い時に価格が高騰するとリスクも存在します。

 とりわけ煩雑な事務作業による納入の遅れは、日本を含めたFMS利用国の間では問題視されています。航空機のような高額な兵器の納入遅延は多くはないのですが、輸入後の円滑な運用に不可欠な部品などには、国内外で大幅な納入の遅れが発生しているようです。

 たとえば、陸上自衛隊が運用しているAH-64D戦闘ヘリコプターに搭載されている「ロングボゥ」レーダーの本体を保護するためのカバーを、FMSを利用して購入しようとしたところ、発注から納入までに数年間を要したという話を、筆者(竹内 修;軍事ジャーナリスト)は耳にしたことがあります。

 トランプ大統領の署名した大統領令によって、FMSの抱える問題が解決すれば、日本のように多くのアメリカ製兵器を導入している国にとってはありがたい話ではあるのですが、それだけでアメリカ製兵器が飛ぶよう売れるようになるのかと問われたら、難しいのではないかと筆者は思います。

時遅し? 吹き荒れる「アメリカ離れ」

 トランプ政権はロシアとウクライナの戦いの調停を行っていますが、そのロシア寄りに見える姿勢はヨーロッパ諸国の反感を買っています。どこまで本気なのかは不明ですが、トランプ大統領はカナダやデンマーク領グリーンランドの併合を公言しており、これも反感に拍車をかけています。

 こうした事情からヨーロッパ諸国の間では、「ヨーロッパの防衛はヨーロッパ製兵器によって支えられるべき」という気運が高まっています。またトランプ大統領に自国の併合を公言されたカナダでも、アメリカ製兵器への依存度を低くしようという声が大きくなっています。

 ヨーロッパ諸国とカナダにおけるアメリカ製兵器離れの顕著な例が、ポルトガル政府のF-35A戦闘機調達方針の撤回と、カナダとスイスなどで起こっているF-35A調達の見直しでしょう。

 ベルギーはF-35Aの調達は継続しますが、同国のテオ・フランケン国防・外務防衛相は2025年4月14日、引き渡しが完了していない分についてはアメリカのフォートワース工場で最終組み立てが行われた機体ではなく、イタリアのカメリ工場で最終組み立てが行われた機体の導入を希望していると述べています。

 F-35Aは優れた戦闘機ですが、にもかかわらずヨーロッパ諸国やカナダでこのような動きが起こっているのは、トランプ政権の外交方針に対する反発によるものだと筆者は思います。

「関税上げたら戦闘機買えないですよ!」

 さらに、トランプ政権は世界各国に対して大きな関税を課す方針を示しています。これもアメリカ製兵器離れに拍車をかける可能性がありそうです。

 フィリピンはアメリカからF-16V戦闘機の導入を決定し、アメリカ政府も輸出を承認していますが、同国のホセマヌエル・ロムアルデス駐米大使は4月10日に、トランプ政権が当初の発表通りに関税の税率を引き上げればフィリピン経済は悪化し、F-16Vの調達に支障が生じるとの懸念を示しています。

 4月25日付の「ニューズウィーク」は、アメリカの防衛関連分析サイト「19FortyFive」の記事を引用する形で、ベトナムとアメリカとのF-16戦闘機の導入交渉が妥結間近と報じています。ニューズウィークが引用した19FortyFiveの記事は、ベトナムがF-16を導入することになっても、適当な中古機が無いことから、高性能であるがゆえに高価なF-16Vになるとの見解を示しています。

 フィリピンに比べれば経済的には安定しているとはいえ、仮にアメリカが当初の発表通りベトナムに大きな関税を課せば、ベトナム経済は悪化しますので、高価なF-16Vをベトナムの希望するだけ導入できる可能性は低くなると考えられます。

 兵器を海外へ輸出して国内防衛産業を活性化するというトランプ政権の考え方は合理的だと思いますが、外交政策と経済政策を修正しなければ、FMS事務手続きの簡略化だけで防衛産業を「グレートアゲイン」とするのは、なかなか厳しいのではないかと筆者は思います。

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