新年を祝う人々の目と舌を楽しませる『氷頭なます』

鮭は古くから捨てるところのない魚として人々に親しまれてきました。鮭を使った料理は数多く知られていますが、中でも「氷頭なます」と呼ばれる料理は北海道など鮭の獲れる地方の正月のおせち料理の一品として晴れの食卓を彩ってきました。別名「かぶらぼね」とも呼ばれる「氷頭」とは鮭や鯨の頭部、鼻先から目の辺りにかけての軟骨部分の呼び名で、特に薄切りにした時に透き通った様子が氷のように見えることからついた名称のと言われています。氷頭は平安時代中期に編纂された『延喜式』という書物の中に、氷朝廷へ献上されたという記述が見られ、鮭の体の1%にも満たない部位である氷頭を人々は古来より珍重してきたようです。

塩をふった氷頭を細切りにした大根や人参と共に酢や砂糖などで和えて作られる氷頭なますは、良く見かける紅白なますに、氷頭のこりこりとした歯応えが加わります。ゆずやイクラがあしらわれることもあり、透明感のある華やかな見た目も晴れの日の食卓に喜ばれる一因かも知れません。

氷頭なますは、日本の鮭の実に80%以上のシェアを誇る北海道ではもちろん新潟や青森、岩手の海沿いの地域で正月の郷土料理として親しまれてきました。また、生鮭ではなく歳暮の荒巻鮭を使ったものもいつしか全国的に広まりました。一般的には鮭の頭部は廃棄されてしまうことも多く、氷頭なますは一部の食通を唸らせるような知る人ぞ知る珍味でした。

ところが近年、氷頭にはアンチエイジング効果が期待できるなどといった説が流行り注目を集めたことから、同時に昔ながらの氷頭の食べ方として氷頭なますも脚光を浴び、飲食店で突き出しとして提供されたり、鮮魚店が通信販売で売り出したりと、目にする機会が増えました。新しい発見と可能性を見いだされると共に、今も伝統的な郷土料理として、爽やかな酸味と独特の歯応え、大根と人参の紅白の色彩に添えられる薄氷のような氷頭のなますは新年を祝う人々の目と舌を楽しませ続けています。

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