【カイロ時事】訪米したサウジアラビアの事実上の最高権力者ムハンマド皇太子は、安全保障や経済面で、米国との連携強化を推し進めた。2023年10月に始まったイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突に端を発した中東情勢の流動化を受け、これまで多角的な外交を追求してきたサウジには、米国の「後ろ盾」を改めて確保し、抑止力を高めたい思惑がある。
「米国の未来を信じている」。ホワイトハウスでトランプ米大統領と会談した皇太子はこう述べ、対米投資を増額する意向を表明。その規模約1兆ドル(約155兆円)はサウジの政府系ファンドの資産に相当する。米国との関係拡大に向けた本気度をうかがわせた。
サウジと米国はもともと、サウジが石油を安定的に供給する見返りに米国が安全保障を提供する「特別な関係」を築いてきたが、近年陰りも見えていた。2000年代後半の「シェール革命」の効果で、米国が世界最大の産油国となり、米国の関心が中東から台頭する中国へと移ったことが背景にある。
19年にサウジの石油施設がドローン攻撃を受けた際には、1期目のトランプ米政権は「黒幕」と目されたイランへの軍事行動を回避。これが契機となり、サウジは、「米国一辺倒」の安全保障政策を見直し、国防・外交の多角化にかじを切った。
サウジは中国に接近し、23年には中国の仲介で敵対するイランと外交関係を修復した。今年9月には事実上の核保有国パキスタンと防衛協定を締結。「核の傘」を得る目的があるともささやかれている。
しかし、イスラエルが「中東の姿を変える」(ネタニヤフ首相)として、パレスチナ自治区ガザにとどまらず、レバノンやイラン、イエメンにも戦線を拡大。シリアでもアサド政権崩壊に乗じて地上侵攻した。ムハンマド皇太子は、強力な軍事力を背景に新たな秩序形成を模索するイスラエルにブレーキをかけられる米国との関係強化は不可欠と判断したとみられる。
ただ、皇太子は米国への大規模投資でトランプ氏の歓心を買う一方で、トランプ氏が求めるイスラエルとの国交正常化については慎重姿勢を貫いた。会談では、パレスチナ国家樹立に向けた「明確な道筋の確保」が条件だと原則論を繰り返し、正常化を対米、対イスラエルの外交カードとして残した形だ。
〔写真説明〕18日、米ホワイトハウスを訪れたサウジアラビアのムハンマド皇太子(AFP時事)

