西アフリカで過激派伸長=仏軍、国連部隊撤退で勢力拡大―放置なら日本権益に影響も

 アフリカ西部を拠点とする国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派が勢力を拡大している。専門家は、フランス軍や国連平和維持活動(PKO)部隊の撤退によって伸長に歯止めがかからなくなったと指摘。放置すれば周辺地域での日本企業の活動にも影響が出かねないと警鐘を鳴らす。
 ◇軍襲撃で武器確保
 ここ数年、勢力を伸ばしているのはアルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)。マリやニジェール、ブルキナファソの3カ国を拠点としてきたが、ギニア湾岸のナイジェリア、ベナンなどでも活動が伝えられるようになった。
 マリでは19日、軍拠点が襲われ、ロイター通信によると兵士21人が死亡。軍用車両15台と50以上の武器が奪われた。アフリカの安全保障が専門の明治大アフリカ研究所の上江洲佐代子客員研究員は「JNIMの武器の半分以上は襲撃で奪ったものだ」と指摘する。
 国軍の力が弱いマリではテロ対策が進まず、2013年に旧宗主国フランスやPKOの部隊が展開した。しかし戦況が泥沼化する中、クーデターで軍事政権が成立。似たような苦境にあったニジェール、ブルキナファソと共にロシアとの関係を深め、仏軍などを排除したことで過激派の活発化を招いた。JNIMはバイクや自動車で移動し、管理が手薄な国境地帯を越えてナイジェリアなど周辺国に進出しているという。
 ◇「信条」なき過激化
 上江洲氏は、JNIMについて「本当のイスラム原理主義者ではなく、イデオロギーがあるのかないのか分からない」と分析する。家畜を略奪された遊牧民ら、政府に弾圧されてきた少数派が利害の一致によって集まった面もある。軍政の暴力的なテロ対策や腐敗も一因とみる。
 かつては身代金目的の外国人誘拐を財源としたJNIMだが、最近では小規模な鉱山から採れる金や、違法伐採、麻薬密輸などを通じて資金を得ているとされる。
 ◇カギは小規模支援継続
 上江洲氏は、過激化を防ぐために国境地帯や地方での小規模な支援継続が重要と強調する。「なるべく早く井戸が欲しい。すぐに来てくれないと(困窮から)若者が過激派に寄っていってしまう」といった住民の声を聞いているからだ。「かつて米国が行った(遊牧民の)家畜への予防注射は非常に効果的だった」という。
 日本政府は、22日に閉幕した第9回アフリカ開発会議(TICAD9)で、日本企業の対アフリカ投資を官民で拡大し、新たな経済圏を構築する方針を提唱した。テロ組織の拡大を防止しないと、進出企業が標的になるリスクも上がりかねない。13年にはマリ北部からアルジェリアに侵入したイスラム武装組織による人質事件で日本人10人が死亡している。
 上江洲氏は過激派について「アフリカ各国首都でもテロを起こす能力がある」と警告した。「過去2年で活動範囲が広がった。2、3年後には『対岸の火事』と言えなくなるかもしれない」と述べ、地域の各国への関与継続を訴えた。 
〔写真説明〕国際テロ組織アルカイダ系の「イスラム・ムスリムの支援団」(JNIM)が犯行を主張した自爆テロで被害を受けた建物と車=2018年11月、マリ北東部ガオ(AFP時事)
〔写真説明〕上江洲佐代子(明治大アフリカ研究所客員研究員)(本人提供)

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