
高速道路の建設による地域の分断に配慮して、高速道路を横断する橋やアンダーパスなどが設けられることがありますが、これは“ヒト”だけに限りません。動物のためにも立派な横断路が設けられます。ただ海外では一段レベルが違いました。
サルのイラストが目印の橋、「人間用」じゃない!
高速道路が作られる際、それによって分断される既存の道路は、高速道路をまたぐ形で新たに橋などが架けられ、地域の人々の行き来が担保されることが一般的です。山間部の高速道路では、こうした橋が次々に現れるところがあります。トンネルと切り通しが連続する東九州道の別府ICと大分ICの間も、そうした橋が多く架けられている区間です。
こうした高速道路を渡る橋のほとんどは、とくだん外見上の特徴が求められるわけでもありませんが、東九州道のこの区間を走り、側面に「四つ足で歩くサルのイラスト」が大きく描かれた橋に気付いた人もいるのではないでしょうか。
この「平原橋」は、他の橋とは異なり、地域住民の交通のための橋ではありません。じつはこの橋、この山中に住む、ニホンザルをはじめとする野生動物が行き来するために設置された橋なのです。
「動物の生息域に道路が通る」その影響とは?
高速道路は、広い幅員が必要であること、既存の道路とは立体交差となることなどから、用地買収がしやすい山間部などに作られることが珍しくありません。その際には自然環境との調和が課題となります。野生動物の生活の場となっている森林や原野に、幅の広い人工の道路が横切ることは、動物たちに主に二つの影響をもたらすことになります。
まずは移動の自由の制限です。高速道路により生活の場が分断されると、これまで行き来できていた住処と水場や餌場への移動が困難になります。また繁殖により生息数が増えても、狭いところに閉じ込められると、食料難などの問題も発生します。
次にクルマとの事故のリスクです。移動を制限された動物たちが、より広い土地を求めて高速道路を横断すると、クルマとの予期せぬ接触事故の可能性が高まります。そのため、この平原橋のように、野生動物が高速道路の反対側とを安全に往来するルートが作られるのです。
またこうしたルートは橋だけに限られるわけではありません。たとえば盛り土で作られた高速道路では、トンネル状の通路を路盤の下に残し、野生動物の行き来ができるよう配慮する場合もあります。こうしたルートを総称して「アニマルパスウェイ」と呼びます。
「鳥用」もあります→飛べるのに!?
こうした自然環境に配慮した高速道路の構造は、地上に住む動物だけを対象とするものではありません。じつは空を飛ぶ鳥に対しても、高速道路がリスクとなる場合があります。
鳥は常に飛び続けているわけではなく、ときに樹上や地上に降りて羽を休めます。このとき、降りた場所がたまたま道路であるというケースは十分に考えられます。
もしこれが一般道であれば、近づいてくるクルマに気付いて飛び立ったり、逆にクルマが鳥に気付いてブレーキを踏み、事故を回避することができるでしょう。しかしクルマの速度域が高い高速道路では、そうした双方の事故からの回避行動が間に合わず、事故のリスクが大きく高まるのです。
そのため、とくに大型の猛禽類が住むエリアでは、高速道路の上を金属製などのネットで覆い、鳥が道路上に降りないよう工夫しているところがあります。あたかも網のトンネルのように見えるため、高速道路を走行するドライバーからは「なぜこんなところにネットが?」と思われるでしょうが、じつはそんな深い理由があるのです。
「レベルが違う動物対策道路」今夏開通
海外では、費用、スケールとも、ちょっと桁外れな野生動物対策を行う例もあります。
タイの運輸省地方道路局は、ラヨーン県のカオチャマオ・カオウォン国立公園とチャンタブリ県のカオアンルーナイ自然保護区を通過する国道4060号について、この区間を橋長525mと155mの二つの高架橋として整備し、2025年7月に交通開放しました。
ここでは「アニマルパスウェイ」を設けるどころか、“本線”をまるまる高架にして、動物のくぐり抜けを可能としたのです。往復2車線の橋の幅員は11mで、桁下の高さは10mと、かなりの高さがあります。
これはゾウの通行を想定したもの。じつはこの地域には野生のゾウが多く住んでおり、ゾウとクルマとの衝突事故は、双方にとって大きなリスクとなっています。
小型の動物であれば、その動物が道路を越えるために使える簡易な高架橋などを作り、かつ道路の両側を柵で覆うことで、一定程度の誘導は可能でしょう。しかしゾウが相手では高架橋も本格的なものが必要ですし、そもそも自分の力で柵を倒すこともたやすいゾウが、大人しく高架橋を渡ってくれるとは限りません。そのためゾウとドライバー、双方の安全を確保するため、道路そのものを高架としたのです。
橋はタイ王室が支援するゾウ保護プロジェクトの一環として建設され、建設費は5億8700バーツ(約27億円)とのことです。