
先週行われた国内女子ツアーの新規大会「明治安田レディス」の開催コースになった仙台クラシックゴルフ倶楽部がある宮城県富谷市は、豊かな自然に囲まれた、県内でも屈指のベッドタウンだ。人口は約5万2000人。大東建託による「街の住みここちランキング」では『6年連続東北1位』、『7年連続宮城県1位』にも選ばれている。
同コースがツアー競技で使用されるのは、2002年以来。現在は同じ宮城県の利府ゴルフ倶楽部で行われている「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」が、当時レインボーヒルズゴルフクラブという名称だった現在の仙台クラシックGCを1998年から5年間、使用してきた。
主な玄関口になった仙台駅も、開幕前から大会ムードに包まれていた。明治安田レディス開催をPRする大小のポスターなどが至るところに掲げられ、明治安田所属で大会の顔役を担った勝みなみが、「(ポスターの写真などで)自分がたくさんいるのが恥ずかしかった」と言うほど。街全体で、開催を後押ししているのが印象的だった。
ただ、大会週に入るとその静かで暮らしやすい富谷市は、プレー以外の面で騒がしくなった。プロアマ戦が行われていた16日に、1番ティ付近で目撃情報があった“子グマ”が、大会を揺るがすことになる。その日は警察などもコースに立ち入る、異様な雰囲気に。結果的に、プロアマ、そして翌17日に行われる予定だった本戦初日の競技が中止になった。大会自体は行われたものの、競技日程は3日間に短縮。コースではクマに対する厳重な安全対策がとられたうえで、無観客試合に、という決断がくだされた。
「残念でした。観客を入れて、みなさんに楽しんでもらいたかった」と話すのは、富谷市役所農林振興課の職員。クマ出現により、警察や猟友会とともに対応にあたったのが、この富谷市役所だった。話を聞くと、富谷市にクマが出没する頻度は決して高いものではなく、今年に入ってから大会までで「1~2件程度」。それも毎年出没するというものではなく、「隔年ごとに数件あるくらい」と説明する。
「昨年は山が豊作で、クマの目撃情報はほとんどなかった。今年はこの異常気象もあって、山の木の実などが少なく、それで街におりてきたことが考えられます。もともと富谷市はイノシシは多く生息していますが、山が多いというわけではなく、クマの頭数自体は決して多くありません。クマは1日20~30キロほど移動をするため、目撃されたのはたまたま通りがかったところだったなど、さまざまな可能性が考えられます」
コースでの目撃情報があった翌日、近隣で子グマが発見され、映像でも流されたことでその存在がさらに印象づけられることになった。ただ、今回のように出没した場合でも、日頃から猟友会などとのコミュニケーションは密なため、迅速な対応がとられる。
観客が入らなかった影響は、決して小さいものではない。例えば予選ラウンド2日間は3500円、決勝が行われる土日は4500円に設定されたチケット収入もゼロになるといった経済的な損失も出た。それは地元の企業や店舗6社などが出店を予定していた飲食ブースも同様だ。
ギャラリープラザでの出店を予定していたひとつの店舗の代表者に話を聞くと、「出店できなくなるリスクは考えているため、仕方ないことだと思っています。今回の安全面のことを考えると、全員が納得という選択をすることはできないのが当然です」と前置きしたうえで、「今回の件により、今後の安全対策につながることがあるはず。この後の動き方が大切になってくると思っています」と経営面の話ではなく、“ひとりの地元民”としての願いが語られた。
そして、これは自治体としても共通の想いだ。先ほどの富谷市役所職員は「ゴルフ場があるところは自然が多い。今回のことが対策のきっかけになれば。ゴルフは生涯スポーツとして多くの人たちに愛されている。来年もぜひ富谷市で開催してもらって、観客を入れ、盛り上がってほしい。そのための準備をすすめていきます」。1年後はクマへの恐怖心ではなく、大きな拍手と歓声が包むコースになることを期待している。
大会期間中は朝、夕に爆竹を鳴らしたり、コース全周を囲っている獣侵入防止フェンス沿いに獣が嫌う匂いを散布するなどの対策が取られた。日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長は、大会終了後に「今後のJLPGAツアーで、クマの安全対策の礎になった」とも話している。また『来年の開催コース』について質問が出た際には、「特に変更はないという認識。すごくご協力いただいて、感謝しかない」と、継続開催も示唆した。
本来、動物の生息地ともいえる山に近づき、コースを作っているのは人間だ。ゴルフは自然のなかで行う競技ということもあり、今回のような動物への対策のみならず、例えば現在の異常気象などに対しても、これまでの対策を“日々”アップデートする必要にせまられるかもしれない。今回、話を聞いた開催地の人々の願いが、しっかりと具現化されることに期待したい。(文・間宮輝憲)