無個性キャラクター「桃色ウサヒ」の“非主流”地域おこしは、地域課題の発生原因を緩和する!?

山形県の真ん中に位置する朝日町。りんごとぶどうの栽培に適した環境を持つ、りんごとワインの里です。ここで、他とは違うやり方で地域おこしに取り組んでいるのが、まよひが企画の佐藤恒平さん。成功事例と言われる主流のやり方を再現するのでも、全く新しいやり方を開拓する反主流でもない、非主流の地域振興を研究しています。無個性の着ぐるみ「桃色ウサヒ」を活用した地域振興とは? 佐藤さんにお話を伺いました。

登る山は同じ。でも登る道は違っていい

奇跡的な確率でしか起こらない地域おこしって何だろう。40年以上、成功事例と言われるものが少ない理由は何だろう。——僕は、どの地域でも応用でき、成果を得られる手法の確立を目指して、「非主流」の地域おこしを研究しています。

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僕が地域おこしを意識し始めたのは高校時代。デザインを学んでいて、漠然とですが、「将来はデザインを使った地域おこしをしたいな」と考えるようになり、大学に進学後、デザインと地域振興の研究を本格的に始めました。

当時から主流だったのは、地域おこしがうまくいった事例を学んで再現するスタイル。そこに、新しい「反主流」の手法として「イノベーションで地域おこし」に挑戦する人たちが出始めていました。

ただ、僕は再現による主流のやり方と、新しい価値観を見いだす反主流のやり方のどちらにも属せない心持ちがあったんです。主流の再現でうまくいくとも思えないし、イノベーターのように荒野を開拓できるほどのカリスマ性も持ち合わせていない……。

スタートとゴールは主流と同じでも、全く違う道で成果を出す、「非主流の地域振興」ができないかと考え始めました。

桃色ウサヒの誕生と復活

大学院2年生のとき、僕が提案する非主流地域振興の実証実験を受け入れてくれたのが、山形県朝日町でした。取り組んだのは、着ぐるみを使った地域おこしです。全国各地に「ゆるキャラ」がいますが、同じような運営方法でやるのではなく、全く違う運営方法で他のゆるキャラと同じような成果を出したい。

キャラクターに選んだのは、特に可愛くもない無個性なピンクのウサギの着ぐるみ。名前は朝日町にかけて「桃色ウサヒ」と名付けました。

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ウサヒの中には僕が入り、どう動いたら面白くなるかは町の人が考えて指示してもらいます。朝日町の特産を何も表現していないただの着ぐるみのウサヒにみんな不安になるようで、次々とアイデアが出てきましたね。せめてりんごを持たせよう、朝日町だとわかるように後ろ頭に町名を貼ろう、など。

ただ、活動は卒業までの半年間だったので、数値的に目立った成果は出せなかったんです。唯一成果だと実感したのは、就職して1年が経った頃、朝日町役場の方から「仕事を辞めてうちの町に来て、もう一度地域おこしをやってくれないか」と言われたこと。数値以上に、役場の人たちの心に響い実感が嬉しかったです。

再びオファーをくれた朝日町に、僕は地域おこし協力隊として戻り、もう一度ゼロから非主流地域振興の実証実験を始めることにしました。

町長と朝日町役場職員

町民がプロデュースする、ご当地キャラの非主流

そこから、町民がウサヒをプロデュースするスタイルで、無個性で頼りないウサヒに自由にアイデアや意見をぶつけてもらい、僕とウサヒを育成してもらう活動がスタートしました。「ウサヒにこんなことをやらせてみては?」という有志の町民のアイデアを運営に取り入れています。心がけのポイントは、楽しみながら、自然と地域おこしに当事者意識を持ってもらえる活動をすること。

おもしろかったのは、「ウサヒに米作りをさせたい」というアイデア。着ぐるみですが、田おこしから田植え、収穫、出荷までの肉体労働を全部ガチでやったところ、テレビや雑誌の取材を受けることになりました。

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朝日町がニュースに出る、雑誌の表紙を飾るといった確かなカタチになることで、地域の人はますます面白がってウサヒを動かすようになり、まちをより好きになるきっかけになったと自負しています。

それから、ウサヒはカスタマイズも自由。以前、小学校の運動会で、保護者が四角い箱で作ったウサヒを頭に被り、それをバトンの代わりにしてリレーをしていました。
当日の様子をウサヒのホームページで紹介したところ、嬉しいことに、それを見た他の市町村のお菓子屋さんから「四角いウサヒをお菓子のパッケージに使わせてくれないか」と連絡があったんです。お菓子の箱に活用されたことを保護者の皆さんはすごく喜んでくれて、翌年の運動会では箱ウサヒがプリントされたオリジナルTシャツを作って着ていました。
自分たちのアイデアが他の人に認められ、それが自分たちのアイデンティティになるというのはすごく大切なこと。今では、桃色ウサヒがまちの応援大使として県外の人やメディアにも知られる存在になるまで育成されています。

地域課題の発生原因は、人と人の理解

日本各地でさまざまな地域課題がありますが、朝日町にある課題で、他の地域にないものは、ほとんどありません。言い換えれば、人口や規模、文化が違っても、全国各地で抱えている課題はある程度は同じなんですよね。

その理由は、地域課題の発生原因が同じだからだと僕は思います。発生原因は人と人の気持ちの間に生じる理解不足。

自分とは違う形で頑張っている他者がいるとき、特に対立構造にある相容れない人や、新しい価値観で行動している人に対して、理解する前に距離をとってしまいがちです。

相手側の考え方にも踏み込んでお互いに理解できれば、地域おこしに関わるいろんな課題は解決するはず。だけど、相互理解がされないまま、きっと相手はこうに違いないというレッテルを貼り合ってしまう環境こそが、地域課題が生まれる原因だと僕は考えています。

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偉そうなことを言っていますが、これは僕も活動しながら感じている課題で、まだ解決していません。ただ、いろんな世代や立場の町民が主体的にウサヒを活用するという共通体験を重ねることで、その溝が少しでも埋まるきっかけになればと思っています。

また、人間ではないウサヒには、周りの人になかなか言えない本音もポロっと言えたりするので、それが緩衝材となり、今まではできなかった交流が生まれることにも期待しています。

ウサヒは非主流の手法のひとつにすぎませんが、ご当地キャラの概念を飛び越えて、さまざまな成果を見せています。無個性なウサギの着ぐるみで地域課題の発生原因を緩和できたら、非主流地域振興の可能性はもっと広がるかもしれません。

主流と同じゴールを目指すけど決して進む道は真似しない。自分たちが進むべき道を模索して道筋を描き、ゴールに向かう「非主流」の手法を、一つの選択肢として確立させたいと思っています。

信頼をくれる朝日町だから

最後に、僕が地元ではない山形県朝日町で地域おこしを続けている理由についてお話しします。

朝日町に地域おこし協力隊として戻り、任期の3年が満了したとき、役場から独自の予算をつけるので活動を継続して欲しいと言ってもらえました。自治体がこの決断をするのはとても大変で貴重なことだと感じ、その決断に報いようと決意。そのまま朝日町に定住し、2014年に創業した「まよひが企画」の経営をしながらまちの仕事も続けています。

ゲストハウスも運営

多くの人がそうだと思いますが、僕は信頼してくれる人と共に働きたいと考えています。僕の言う信頼とは行動です。言葉で信頼しているよと言うのは簡単ですが、行動で信頼を表すのはとても難しい。

国から活動費がおりる地域おこし協力隊の制度を超えて、まちのお金で僕に仕事を任せてくださるという行動が、「次は僕が町の信頼に応えよう」という原動力になっています。

朝日町ふるさと納税やゲストハウスの運営など、ウサヒ以外のお仕事も増えていますが、その活動の本質はこれからも変わりません。非主流の道のりを描きつつ、アクションを通してさまざまな人の相互理解を生み出していく。たくさんの笑顔が作れる地域振興を目指して、これからも実験的な活動を続けていきたいと思っています。
(取材・文:田村朋美、写真:増山友寛)

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