乳児用「液体ミルク」解禁! メリット・デメリットや注意点

執筆:座波 朝香(助産師・保健師・看護師)
医療監修:株式会社とらうべ
2019年春、乳児用「液体ミルク」の国内での販売が解禁されました。
このことを受け、従来の粉ミルクとの違いや、メリット・デメリットが気になる…という人は多いと思います。
そこで今回は、「液体ミルク」解禁の背景や特徴、専門家が指摘する注意点などをみていきます。
乳児用「液体ミルク」とは
乳児用の液体ミルクは、古くから馴染みのある育児用粉ミルク(乳児用調整粉乳)と同様に、母乳の替わりとして国で認められたミルクです。
国内での要望が高まったことから、法律を見直して液体の調整乳も製造・販売できるようになりました。
その名のとおり液体なので、見た目には牛乳と似たものをイメージされるかもしれませんが、成分は粉ミルクと同じです。
赤ちゃんに必要な栄養を添加し、なおかつ安全に飲めるように使用法もきちんと管理された特別な飲み物(特別用途食品)です。
粉ミルクとの違い:液体ミルクのメリット・デメリット
液体ミルクは「育児が楽になる」という見方が多いようです。
粉ミルクとはどのような違いがあるのでしょうか。
メリット
◎調乳の必要がない
粉ミルクの場合は、製造時に取り除けない菌を死滅させるために70度以上のお湯(一度沸騰させたもの)を用意し、必要な粉ミルクを計量して調乳します。
さらに、水は硬水(硬度の高いミネラルウォーターやイオン水)ではない衛生的な水を使う、という留意点があります。
一方、調乳済の液体ミルクはこうした手順が省略されます。
◎常温で保存可能、すぐに飲ませることができる
粉ミルクは70度以上で調乳するため、その後適温まで冷ます必要があります。
液体ミルクは未開封であれば常温で保存でき、開封したら容器に移してそのまま飲ませることができます。
デメリット
◎粉ミルクよりも割高である
粉ミルクは1缶(約6,000ml)3,000円程度、液体ミルクは国内製造品で1本(125~240ml)200~215円程度です。
ミルクだけをあげる生後1~3か月の赤ちゃんに必要な粉ミルクは、1か月あたり3~9缶分くらいです。
これを液体ミルクに換算すると125ml入りで140~400本くらい、240mlで80~230本くらいになります。
◎保管に場所をとられる可能性がある
液体ミルクは1か月分で100本以上必要です。
ある程度ストックをしようとすると、粉ミルクよりも保管場所が取られたり、購入時に持ち運びの手間がかかったりするかもしれません。
粉ミルクと液体ミルク…どちらを使う?
このように、液体ミルクはすぐに使えて調乳を間違える心配もないので、育児の時短や簡略化という面で重宝されそうです。
とくに、外出先や夜間にミルクを使いたいシーンなどでは、かなり負担が軽減されるのではないでしょうか。
また、普段は母乳だが急きょ子どもを預けたい、搾母乳がないときだけミルクを使いたい、という人にも液体ミルクは適していると思います。
反面、栄養のほとんどをミルクで補う場合は、前述のとおりコスパが悪くなってしまいます。
コスト面を考えると、粉ミルクと液体ミルクを場面に応じて使い分ける方法が賢明でしょう。
災害時の備蓄も液体ミルクがあれば万全?
ここで、災害時に衛生的な水や熱源を確保できない状況を想定してみましょう。
母乳の代わりにミルクを必要とする赤ちゃんには、安全で十分な栄養を得られるようにミルクの備蓄が必要と考えられています。
しかしながら、単純に物質的な防災対策を推進するより前に整備すべきポイントがあります。
たとえば、災害時には母乳が出なくなるという不安や誤解について正しい理解を促すこと、また、安心して授乳できる場所を十分に確保することなどです。
災害時に本来ミルクを必要としない赤ちゃんにまでミルクを取り置けば、全体の備蓄が不足してしまいます。
さらに、母乳を与える機会が減ると分泌も自然と減り、ますますミルクの需要が高まり不足する…といった悪循環に陥りかねません。
ですから、赤ちゃんとお母さんの健康を考えると、平常時も災害時も、母乳育児を必要とする期間はできるだけ継続できるよう、母と子への支援と周囲からの理解が重要なのです。
「液体ミルク」専門家からの注意喚起!
日本小児科学会や日本栄養士会などが、液体ミルクの使用についての注意点を次のようにまとめています。
期限を確認して飲ませること
容器に破損がないことを確認してから飲ませること
未開封時は常温で保管して高温になるような場所に置かないこと
開封したらすぐに飲ませること
飲み残したものは使わないこと
各製品に書いてある使い方の説明書きをよく読むこと
このように、液体ミルクはあくまでも母乳の代替品です。
災害時に赤ちゃんの栄養に困らないためにも、また、普段の母と子の健康のためにも、まず優先されるのは「母乳」という大前提を忘れてはいけません。
とはいえ、海外では既に普及している液体ミルクの解禁を待ち望んでいた人もいるでしょう。
ミルクが必要不可欠な場面での選択肢が増える、これはとても喜ばしいことです。
液体ミルクを取り入れる際は、粉ミルクとの違い、メリットやデメリット、正しい使い方をよく理解して、母と子にとってより良い選択となるよう活用していただくことを願います。
<執筆者プロフィール>
座波 朝香(ざは・あさか)
助産師・保健師・看護師。大手病院産婦人科勤務を経て、株式会社とらうべ社員。育児相談や妊婦・産婦指導に精通
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供

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