富山県の小さな海のまちで、13年前に途絶えたお祭りが復活。その立役者とは

富山県東部に位置する朝日町。平成8年に「日本の渚百選」に認定され、日本の国石となったヒスイがうち上がる数少ない海岸、宮崎ヒスイ海岸があります。そこで行われていた夏のイベント「海の日フェスティバル」は人口減少や労力がかかることなどにより、13年前に途絶えてしまいました。しかし昨年、竹谷茉郁子さんをはじめとする地元の有志が立ち上がり、復活。何が原動力となり、どのようにイベントを復活させたのか。竹谷さんと彼女をサポートした漁協組合長の脇山正美さんにお話を伺いました。

きっかけは、東京の女子大生

——13年前に途絶えた「海の日フェスティバル」。なぜ昨年復活させようと思ったのか、そのきっかけを教えてください。

竹谷 きっかけは、東京の女子大生たちの活動です。縁もゆかりもない朝日町にフィールドワークとして昨年の2月に訪れたのですが、彼女たちは「お世話になった方々に恩返しがしたい、朝日町の魅力をもっといろんな人に知ってほしい」と海の家を復活させるプロジェクトを始めました。

しかも、どこからも予算が出ていないにも関わらず、月に一回のペースで朝日町を訪れてくれたんです。これには衝撃を受けたと同時に勇気をもらいましたね。私も以前から地元のために何かしたいという思いがあったけど、何をしたらいいのかわかりませんでした。そんな葛藤の中、女子大生の活動が私の背中を押したんです。

最初は彼女たちのサポートがしたいという思いでしたが、地域のコミュニティスペースで相談したところ、「海の日フェスティバルを復活させて朝日町を盛り上げるのはどうだろう」とアドバイスをもらいました。たしかに、13年前になくなったイベントを復活させて、大好きな海岸が賑わったらうれしい。ですが、最近まで歯科衛生士だった私は、イベントの企画も開催もしたことがない。そんなとき脇山さんと出会いました。

竹谷茉郁子さん

脇山 そうなんです。突然知人から「竹谷さんをサポートしてやってくれないか」という相談が来て。話を聞くと、海の日フェスティバルを復活させたいとのこと。私はイベントを主催した経験もありましたし、少子化によってこの地域で途絶えてしまった富山伝統の獅子舞を復活させた経験もありました。そして何より竹谷さんのおかれている環境や想いなどを聞いて、かつての自分を見ているようで、何とかしてサポートしてやりたいと突き動かされましたね。

竹谷 正直、イベント当日まで明日が来るのが怖かったですね(笑)。不安しかありませんでした。ですが、コミュニティスペースのメンバー、有志の方、行政がサポートしてくれたおかげで実行に移せました。

行動が人を動かし、仲間を増やす

―イベント開催に向けて、実際どのように進められたのか教えてください。

竹谷 はじめは、有志の方と私の約6人から始まりました。そこから徐々にメンバーが増え、最終的には約20人で企画をして、当日は30人で運営を行いました。イベント開催までの4カ月間で、全体ミーティングは月2回、個別ミーティングは基本毎日行っていましたね。

脇山 ほぼ毎日家に来てミーティングしていたよね。

脇山正美さん

竹谷 自分のお父さんよりも会っていたと思います(笑)。なにしろ突然の企画だったので、資金は無一文状態。協賛してくださる企業を探したり、クラウドファンディングのページを立ち上げたりして、資金を調達しました。

また、私はイベントを通して、「地元の若者に、地元の魅力を認識してもらうきっかけを作りたい」という思いがありました。私は朝日町が大好きで、小さいころから町のイベントに家族で参加し、地元の方と関わっていました。私と同年代の人も、そうやって少しずつでも町と関わっていけば、大好きな場所に変わるのではなないかと考え、同世代の友人や同級生に片っ端から声をかけました。

最終的には約35人がスタッフとして参加してくれて、当日はお客さんとして来てくれた人もたくさんいてうれしかったです。イベントは、13年前のタイムスケジュールを基本とし、前半は親子向けにゲームを行い、後半は海岸でのヨガやサンセットコンサートを企画。町内外から予想を上回る人が来てくださって本当に驚きました。

脇山 500人以上はいたかな?

竹谷 いたと思います。すごく忙しくて、でもとにかく楽しくて、終わったときはまるで自分の結婚式が終わったかのような気分でした(笑)

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人や町が変わり始めた手応え

―イベントを終えて、自分や周りに何か変化はありましたか?

竹谷 まず同世代の友人の意識が変わったことですかね。今回参加したメンバーのみならず、「来年は一緒にやりたい!」と、既に15人以上が挙手してくれています。なかには、「自分の子供のためにも、朝日町の環境を整えたい。このままイベントや施設、サービスがなくなって行くのは怖いから、その環境を作るお手伝いをしたい」と言ってくれた人もいました。

想いがつながったことが、すごくうれしかったし、心から感謝しています。今年は町から予算をいただけることになり、8月の第一週目に「海の日フェスティバル」を開催予定なので、昨年よりもっと楽しんでもらえるような企画を考えたいと思っています。

それから、「朝日町があんなに頑張っているなら一緒に富山を盛り上げたい」と、隣町にも反響があったと聞いたのには驚きました。

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脇山 朝日町が町内外から注目を浴びていることはとてもうれしいですね。他の地域もさまざまな施策を打っていますが、人口減少はどこの地域も同じ。人口を増やそうと他の地域から人を引っ張ってきても根本的には変わりません。

だから、町単位ではなく、近隣の地域全体に交流人口を増やすにはどうするかを考えるべきだと思っています、地域によって持っている資産は違います。たとえば、朝日町なら観光、隣の入善町は食、そして黒部には温泉や宿泊施設があります。将来的には、地域ぐるみで協力し合うことが理想ですね。

竹谷 それから、このイベントを通して気づかされたことがあったんです。女子大生が東京に帰るときにお土産を渡したところ、「え? 朝日町のものじゃないの?」と突っ込まれ、すごくハッとしました。たしかに「朝日町のお土産」というのは少ない。それなら作るしかない!と思い、イベント後はお土産づくりをスタートさせました。

脇山 本当にハッとさせられましたね。すぐに竹谷さんと話し合って取り掛かりました。

竹谷 取り組んだのは、朝日町の魅力を十分生かすために、お刺身でも食べられる新鮮な魚を燻製にして、お土産として販売すること。製法もパッケージデザインも全部、若者世代を中心に、地元の人たちと試行錯誤して作ったので、たくさんの方に食べていただけるとうれしいです。

脇山 魚の鮮度はもちろん、種類や燻製の製法、適した大きさや固さなど、とにかくこだわり抜いて作っているので、ぜひたくさんの方に知ってほしいし、味わってほしいですね。

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訪れたくなる場所、戻りたくなる場所にしたい

―今後、朝日町をどのような町にしていきたいですか?

脇山 小さな町だからこそ、同じ人の顔しか見ない状況になってしまうのは怖いと思っています。東京の女子大生がふと朝日町に来てくれたように、もっといろんな人が朝日町に来てくれるような場所にしたいですね。

竹谷 私は、朝日町の海賊王になりたいんです(笑)。漫画のワンピースのように、一つの目標に対して仲間を見つけていって、一緒に力を合わせながら頑張りたい。行政任せではなく、いろんな世代の人が手と手をつないで、一つの目標に向かえるような環境を作り、それが結果的に、進学や就職で出て行った人も戻りたくなるような場所、子育てしやすい環境につながるといいなと思っています。

朝日町は人口が少ない小さな町ですが、団結力はどこにも負けません。私の大好きな町だからこそできることはまだまだあると信じています。

(取材・文:黒川真梨子、編集:田村朋美、写真:須田卓馬)

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