JR東もテスト「貨物新幹線」誕生間近? 60年前から“やる気”だったはず 歴史を変えるか?

新幹線を貨物列車として用いる動きが具体化し始めています。すでにJR東日本では試験運行を行っているほか、JR貨物も関連する特許の出願を開始。ただ、海外ではもっと前から行われており、日本はようやくといった模様です。

荷物専用の新幹線が初めて走った!

 2023年8月31日、JR東日本は「荷物」だけを載せた上越新幹線の臨時列車を運行しました。今回はE7系12両編成で、東京と新潟の車両基地間を走りました。 2か月前の6月27日には乗客を乗せた10両編成の臨時列車「はやぶさ72号」のうち3両を荷物専用車両として運行していますが、乗客を乗せずに荷物専用という形の新幹線が長距離を走ったのは、今回の上越新幹線が初めての試みです。

 すでにJR東日本では、新幹線の速達性を活用した荷物輸送市場を開拓していく計画を発表しており、JR貨物も貨物新幹線に関わる「貨物積替基地及びこれに用いる移動機構」の特許を出願するといった動きを見せていることから、今回の専用列車はその実験として運転されたといえるでしょう。 とはいえ、世界的に見ると日本は、高速列車を諸外国に先駆けて普及させたものの、高速列車で荷物輸送を行う取り組みはかなり遅いものでした。 日本に続いて高速列車を導入したフランスでは、早い段階でTGV車両の規格で作られた郵便専用編成の貨物列車が運行されていました。この列車のために用意されたフランス郵政公社の専用編成は「TGV La Poste」と呼ばれ、1984年から運転を開始しています。 列車は10両編成のTGV車両で、両端の2両が動力車、中間の8両が全て郵便荷物車となっていました。このTGV車両は先頭の動力車と中間車4両で1ユニットを構成しており、2つのユニットを背中合わせに連結して1編成としていました。

新幹線の速達性&大量輸送能力は貨物に最適

「TGV La Poste」は、予備車を含んで2.5編成が新造され、1編成が既存のTGVを改造する形で生まれています。フランス郵政公社の塗装が施されたアルストム製の車両は、交流25kvと直流1500vの交直両用で在来線への直通運転が可能で、高速区間は最高270km/hまで出せたといいます。 このように、ある意味で特徴的だった「TGV La Poste」はフランス各地を結ぶTGV路線で2015年まで運転されました。それ以降は物流網全体の見直しが行われた結果、鉄道からトラックへ簡単に載せ換え可能な脱着式ボディ、いわゆる「スワップ・ボディ」方式の輸送に置き換えられています。

 改めて視点を日本に戻しましょう。我が国も建設当初の東海道新幹線では貨物輸送を行うことが計画されていました。事実、大阪の鳥飼車両基地と東京の大井車両基地はもともと、新幹線の貨物駅として用地確保されていた経緯があり、前者には貨物駅へ向かう分岐線を本線上に通すための構造物が最近まで残されていました。 新幹線が誇る高速大量輸送能力は、荷物輸送にも積極的に活用されるべきだと筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は考えます。とくに新鮮さを売りにするような、鮮魚や農産物の輸送にはうってつけといえるでしょう。

貨物輸送をうたっていた東海道新幹線の建設

 とはいえ、新幹線を運行するJR各社が荷物輸送に精を出すと、JR貨物の領域を侵すことにつながるような可能性はあったりするのでしょうか。 そもそも新幹線による貨物輸送計画は、東海道新幹線の建設時、その資金の一部を世界銀行から借り入れるために役立ちました。しかし、夜間に線路保守を行う必要から東海道新幹線の線路上を貨物列車が走ることはなく、国鉄は1987(昭和62)年に解体されます。 国営鉄道の民営化を実行した多くの国々では、鉄道事業を線路の維持と列車の運行に分ける上下分離方式が採用されています。同様のケースは日本でも全国各地で見受けられますが、さらに日本では路線網の分割だけでなく、旅客と貨物の分離を組み合わせた方法も採用されました。 その時、建設コストが高く同時に資産価値も高い新幹線だけは新幹線鉄道保有機構(以下保有機構)が保有し、JR東海、JR 東日本、JR西日本(いわゆるJR本州3社)の各社は設備を借りて新幹線を走らせることになりました。これは事実上の上下分離状態といえますが、当時の鉄道事業法では第三種鉄道事業に当たらないとされていました。 一方、新幹線の貨物輸送については議論されることなく、1991年10月に新幹線鉄道施設はJR本州3社に譲渡され同機構は解体された経緯があります。

 当時を振り返ってみると、保有機構が受け取った新幹線使用料は整備新幹線の建設資金などに活用され、並行在来線の存続も問題になることはありませんでした。ところが、株価が史上最高値を付けた1989年、政府はJR3社の株式上場を急いだのです。株式市場での上場を後押しするために、国民の資産でもあった新幹線は民間会社である本州JR3社の持ち物とすることが決まったのです。 北海道新幹線の延伸に伴う並行在来線の存続問題が議論されている今、本格化の兆しが見えてきた新幹線の荷物輸送が、JR各社のあり方を見直すきっかけになるのではと筆者は考えています。

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