F-35Aの“恋人”12年越しの導入か 新対艦ミサイル「JSM」とは 来年度予算に取得費と“自分磨き費”!?

防衛省が発表した令和6年度予算の概算要求に、F-35A戦闘機へ搭載する対艦ミサイル「JSM」の取得が盛り込まれました。このミサイルは当初からF-35Aへの導入が考えられていたようですが、そのためにはF-35A自身も生まれ変わる必要があります。

「ペンギン」から発展した対艦ミサイル「JSM」

 防衛省は2023年8月31日に発表した令和6 (2024)年度予算の概算要求へ、F-35A戦闘機に搭載する対艦ミサイル「JSM」(Joint-Strike-Missile)の取得費として、373億円を計上しました。

 JSMはノルウェー政府がオーナーを務めるコングスベルグ・グルッペン(グループ)の防衛航空宇宙事業部門、コングスベルグディフェンス&エアロスペース(以下コングスべルグ)が開発した長射程対艦ミサイルです。 そのルーツは、ノルウェー空軍の委託を受けてコングスベルグ・グルッペンの前身であるコングスベルグ工廠とノルウェー防衛研究所が共同開発し、NATO(北大西洋条約機構)の標準航空機搭載用対艦ミサイルに選定されている「ペンギン」ミサイルです。ノルウェー空軍は航空自衛隊と同様、戦闘機に搭載した対艦ミサイルによる艦船への攻撃能力を重視しており、ペンギンは戦闘機から発射されるタイプ以外にも、艦艇から発射されるタイプやヘリコプターから発射されるタイプも開発されています。 コングスベルグはペンギンシリーズのさらなる能力向上を目指し、1988年から艦船と航空機に搭載可能なペンギンMk.4の開発に着手していました。しかしこのミサイルはペンギンという名称は継承していたものの、従来型のペンギンに比べて大型化しているだけでなく、2基の外装型固体燃料ブースターと複合材料の使用により射程を延伸するなど、事実上ペンギンとは異なる、まったく新しい対艦ミサイルとして完成します。 このためコングスベルグ・グルッペンはペンギンMk.の名称も、ノルウェー語で「新型海上目標ミサイル」に変更。さらに海外からの注目度が高くなった事からNSM(Neval Strile Missile)という英語の商用名称も付与される事となりました。 このNSMを空中発射型としたミサイルが、令和6年度概算要求にも取得費が計上された「JSM」です。 コングベルグはNSMの空中発射型を、当時ノルウェー空軍の主力戦闘機であったF‐16AM/BMへの搭載を前提に開発していましたが、ノルウェーはF-35のシステム開発実証にレベル3パートナーとして参加しており、2002年からNSMの空中発射型をF-35に統合するための研究を開始。 さらにコングスベルグは2009年6月、ロッキード・マーチンとF-35へのJSMの搭載に両社が関与する協定を締結し、これによりJSMはF-35の兵装ラインナップに加えられる事となりました。

あれ、F-15Jの「JASSM-ER」は何?

 JSMはF-35のA型とC型の胴体下部両側面のウェポンベイに各1発を搭載できるよう、胴体が設計されており、また主翼も展張式に変更されています。 また詳細は不明ですが、主導力のターボジェット・エンジンの変更と、それに伴うエアインテークの形状の設計変更も行われています。これらの変更によってJSMは高高度を飛翔した場合の最大射程が500kmに達するとも言われています。 他方、令和6年度防衛予算の概算要求には、能力向上改修を施したF-15Jに搭載される長射程巡航ミサイル「JASSM-ER」の取得費も計上されています。 異なる種類の戦闘機発射型対艦ミサイルの取得は一見無駄に思えますが、ミサイルの誘導装置を妨害する能力も向上している現状において抑止力として機能させるためには、国産の12式地対艦誘導弾(空発型)なども含め、複数の戦闘機から発射する長射程対艦/巡航、ミサイルを保有していた方が、日本政府の提唱する「スタンド・オフ防衛能力」の完成度は高くなると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

JSMと一つになるにはF-35Aの“自分磨き”が必要!?

 防衛省・航空自衛隊が最初にF-35Aの導入を決めたのは2011年12月のことですが、この時防衛省が作成した、次期戦闘機の機種選定の詳細をまとめた資料には、航空自衛隊がF-35Aの調査を行うにあたって、調査団がノルウェーを訪問していたとの記述がありました。この点から見て、航空自衛隊は早い段階からF-35AとJSMの導入をワンセットで考えていたと見るべきですが、航空自衛隊にとって12年越しの恋人(?)であるJSMの運用開始までには、まだクリアしなければならない事があります。 JSMはブロック4ソフトウェアをインストールしたF-35から運用が可能となりますが、航空自衛隊はブロック3Fが標準ソフトウェアであったころからF-35Aを導入しています。令和6年度予算の概算要求には、ブロック3Fソフトウェアがインストールされた状態で納入された29機のF-35Aのソフトウェアをブロック4へ更新するなどして、JSMの運用を可能にする経費として234億円が計上されています。 ソフトウェアを更新しないと使えない機能がある点はスマホのようでもありますが、スマホのソフトウェアのアップデートにはほとんどお金がかからないのに対し、ソフトウェアのアップデートを中心とする作業で1機あたり約8000万円の経費を必要とするあたりに、筆者は「やはりF-35AとJSMも防衛装備品なのだなあ」と妙に関心をしてしまいました。

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