何が違うんですか!?「F-22とF-35どっちが強いか」米軍パイロットに聞いてみた「スマホと同じですよ」

アメリカで生まれたステルス戦闘機F-22「ラプター」とF-35「ライトニングII」。似通った外観を持つこの2機種は性能的にどちらの方が優れているのでしょうか。F-22に長年乗っていた米軍パイロットに話を聞きました。

同じように見えるF-22とF-35どっちが強い?

 2023年8月現在、新しくて高性能な戦闘機を指すものに「第五世代戦闘機」という単語があります。一般的には、空中戦で敵機を圧倒するステルス性や、高性能な電子機器を装備するなどした機体のことで、アメリカ製戦闘機ではF-22「ラプター」とF-35「ライトニングII」がそれにあたります。 この2機種は共にロッキード・マーチン社が開発した機体で、ステルス性を追求したため、外見も近似しています。

 そのためか、F-22とF-35は比較されることが多く、「どちらが戦闘機として優秀か?」という議論が度々巻き起こっています。また、そこから尾ヒレが付いて「アメリカ空軍しか持っていないF-22が最強で、海外に輸出されたF-35はそれよりも劣る」という意見も見ることがあります。 戦闘機に対して「どっちが強い?」――機密情報の塊であるその能力について筆者(布留川 司:ルポライター・カメラマン)を含めた一般人が優劣の判断を下すことは難しいことです。では、本職の人はどう思っているのでしょうか。 以前、筆者はアメリカ空軍のF-22パイロットに話を聞いた際、F-22とF-35の違いについても質問しています。それに対する回答は、「どっちが強い」といった単純明快なモノではありませんでしたが、本職だからこそ答えられるといった興味深い内容でした。

F-22乗りに聞いてみた「F-35ってどうよ?」

 筆者がインタビューを行ったのは、F-22のパイロットであったディキンソン少佐(階級は当時)です。ディキンソン少佐は2016年から約2年間、エアショーでの展示飛行を行う「F-22デモンストレーション・チーム」のパイロットとして活躍していた生粋の戦闘機乗りです。 この「F-22デモンストレーション・チーム」というのは、航空自衛隊のアクロバットチーム「ブルーインパルス」のように、基地や空港で開催されるエアショーイベントでF-22を操って展示飛行を行う専門のチームです、彼はそこのレギュラーメンバーでした。 ディキンソン少佐はデモパイロットになる以前にもF-22乗りとして約8年のキャリアを積んでおり、そのうち3年間はF-22の教官として後進の育成にも従事。操縦経験だけでなく「F-22に対して一言」と聞けば「Love Raptor!(ラプター大好き!)」と即答するくらい、この機体に愛着を持っているパイロットでした(現在はアメリカ空軍を退役)。

 そんなディキンソン少佐にF-22とF-35の違いについて聞くと、一番に挙げたのは搭載しているエンジンの数でした。「2つの戦闘機の大きな違いは機動性です。F-35は1つのエンジンで、F-22は2つのエンジンが搭載されています。F-35とF-22は同じように優秀なフライトコントロールシステムを持っていますが、2つのエンジンがあるF-22の方が機動性は上です。そう考えるとF-35はドッグファイターとしてはデザインされていないとも言えます。任務についても、F-35の任務の比率は対地攻撃の方がやや多く、F-22の場合は制空任務の方により多く割り振られています」 F-22とF-35の機動性の違いは、アメリカ空軍の公式スペックデータでも見て取れます。最大速度についてはF-22がマッハ2以上なのに対して、F-35はマッハ1.6に留まっています。また、上昇限界についてもF-35が5万フィート(約1万5000m)に対して、F-22は5万フィート“以上” とされています。 ちなみに、F-22の上昇高度については今年(2023年)2月4日、アメリカ本土上空に侵入した中国の高高度偵察気球を撃墜した際、高度5万8千フィート(約1万7000m)まで上昇してミサイルを発射しており、その機動性が数値だけではないことを実証しています。

例えるなら「スマートフォン」新しい方が優秀なのは当然

 しかし、現代の空の戦いの勝敗は、戦闘機の機動性だけで左右されるものでもなくなっています。空中戦では素早く飛べることよりも、相手の存在を先に探知して、いち早くミサイルなどで攻撃できる方が重要です。 現代の空中戦で重要となるレーダーなどの電子機器は、後に開発されたF-35の方が新しく、それはディキンソン少佐も認めていました。「私の感想ですがF-35とF-22の差はスマートフォンのようなものです。後から開発されたF-35の方がセンサーや搭載機器は当然ながら新しいです。スマートフォンも1年経てば高性能な新モデルが出ますよね。しかし、スマートフォンでは新しいモデルと古いモデルを比較しても基本的な性能の差はそれほどありませんし、両方とも同じように使えます」 F-35の方が優れている点としては、他のプラットフォームから情報を得る「データリンク」機能と、その情報を統合化して戦闘に生かせる「センサー・フュージョン」能力が挙げられます。データリンクはF-22にもある機能ですが、F-35はその情報を自身のセンサーと合わせてわかりやすく整理・統合化してコックピットに表示することで、パイロットが戦闘地域の状況認識と戦闘のための判断を速やかに行えるようになっているのが特徴です。

 また、自機が情報を入手するだけでなく、それを同じ戦場にいる味方機や、地上レーダーサイト、艦艇などと情報共有することも可能であり、戦場全体のシステムの一部として戦うこともできます。その場合、F-35は「敵機を撃ち落とす戦闘機」という存在以上のものへと昇華し、最終的には戦局自体を左右する重要な存在となることができます。 開発したロッキード・マーチンがF-35のことを「ゲーム・チェンジャー」(スポーツ試合などで途中参加して勝負の流れを変えてしまう選手のこと)と呼んだのも、このような理由からです。 ディキンソン少佐も「F-35で使われる新しい技術は、我々のラプター・コミュニティー(F-22飛行隊)でもその恩恵に預かることができます。戦場において両機が一緒に飛べば、その能力は他の戦闘機よりも優れたものとなるでしょう」と言っていました。 要するに、F-35の優れた部分は、一緒に任務に就いた時にF-22にも大きなメリットを与えてくれるものだということです。

F-22すでに運用は下り坂 今後はF-35が主軸に

 ディキンソン少佐のコメントによれば、F-22「ラプター」とF-35「ライトニングII」の能力には明確な違いがあり、そこに優劣をつけるのではなく、両者がどう協力すれば相乗効果を図れるのか、そこを考えているといった感じでした。最後には「私自身がF-22のパイロットを続けた上で、新しいF-35のコミュニティーにも関わっていき、彼らと共に第五世代戦闘機の世界を体験していきたいと思います」とまで付け加えていたほどです。 ただ、パイロットからは愛されているF-22ですが、戦闘機の運用としては最盛期を過ぎて晩年に向かいつつあるとも言えます。F-22の最初の機体が配備されてからすでに20年近く経っており、第五世代戦闘機と呼ばれてはいるものの、決して最新鋭の機体ではありません。老朽化による運用コストの上昇も深刻で、2020年にアメリカ国防総省が発表した資料によれば、F-22の1時間あたりのコストは4万385ドル(約588万円)にもなっており、これはF-35Aの1万6952ドル(約246万円)の倍以上です。 すでに後継機となる第六世代戦闘機の開発も始まっていることから、F-22は2030年代から段階的に退役していくと言われています。

 一方のF-35については、現在も生産が継続されており、増産効果によって生産・運用コストも徐々に低減しています。日本に限ってみても、F-35は対空戦闘と対地攻撃の両方が行える優れたステルス戦闘機であるため、そのような汎用性に長けた高性能機が入手できたメリットは大きかったはずです。 また、それだけでなく、今後の戦場では必須となるネットワークを活用した戦闘にも対応できるようになります。加えて、国際的な安全保障の面でも、運用しているのがアメリカのみのF-22と異なり、F-35はすでに多くの国で導入されているため、それらの国々とノウハウの共有や円滑な防衛協力が可能になることから、日本にとっては戦闘機として以上の多くのメリットがあったとも言えるでしょう。

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