古すぎ戦車も「ぼったくり価格」に!? レオパルト1「50両も買った」のは誰だ

約半世紀前のドイツ製戦車「レオパルト1」が、何者かによってベルギーの軍需企業から購入されました。今さら、なぜ中古戦車を必要とするのでしょうか。そこには、新しいビジネスチャンスをうかがう思惑が働いていました。

「デッドストック品にぼったくり過ぎではないか」

 ロイター通信は2023年8月8日、“欧州のある国”が、ベルギーの軍需企業「OIPランドシステムズ社」が所有していたドイツ製戦車「レオパルト1」50両を、ウクライナに供与するために購入したと報じました。“ある国”とはどこなのか、金額や納期なども明らかにされませんでした。

 レオパルト1は、旧西ドイツが1960年代に量産した戦車で、ドイツ本国では2003(平成15)年に全車が退役しています。ベルギー政府はウクライナに供与するため、OIPとレオパルト1の買戻しを折衝していたのですが、事実上頓挫していました。原因は価格です。 2014(平成26)年時点の、ベルギー政府からOIPへの払い下げ価格は1両4万ユーロでしたが、その後OIPは買い戻し価格に1両100万ユーロを提示したのです。後に50万ユーロまで値下げしましたが、いくら再整備するとはいえ、デッドストック品に「ぼったくり過ぎではないか」との声を受け、物別れになっていたのです。 そこへ“ある国”が名乗りを上げて購入したことについて、OIPのフレディ・ベルスルイス最高経営責任者(CEO)は、「われわれは公正な市場価格を提示し、それを喜んで受け入れる購入者がいたということだ」と述べています。 ドイツの経済紙『ハンデルスブラット』は、この停滞していた商談に割って入った購入者の“ある国”とは、ドイツの軍需企業「ラインメタル」だと報じました。契約金額は不明ですが、ベルギー政府が拒否した条件でも、ラインメタルは購入する価値があるとみなしたわけです。ラインメタルはウクライナで地歩を固めようと動いていますが、中古戦車にどんなビジネスチャンスを見出しているのでしょうか。

対戦車戦闘があまり起こっていないからこそ…

 今回取引されたのはレオパルト1の最終形であるA5という形式です。射撃統制装置こそ第3世代戦車並みに改修しましたが、主砲は105mm砲、装甲厚は砲塔前面でも100mm、エンジン出力は830馬力と、ロシア軍の第3世代戦車「T-72」には抗しようもありません。 しかし、ロシア・ウクライナ戦争では対戦車戦闘はそれほど起こらず、第2世代戦車とはいえども歩兵支援や砲撃用としては有用であることがわかってきました。また、レオパルト2やアメリカ製のM1エイブラムスのような第3世代戦車に必須となる、複雑なデジタル機器の取り扱い訓練も不要なこともあり、即戦力としてニーズが高まっています。 戦争の長期化が予想される中で、第2世代中古戦車の価値は上がってきています。デッドストックがお宝に化けつつあるわけです。いみじくも前述のOIPのベルスルイスCEOがいうところの、需要と供給の市場動向を的確に反映した公正な市場価格は、単なるぼったくりではなくなりつつあります。

 ドイツは2023年2月に、レオパルト1A5をウクライナに輸出することを承認しました。それを受けてレオパルト1を運用していたドイツとデンマーク、オランダが少なくとも135両のレオパルト1A5を購入し、改修する費用を負担する計画となっています。 ここで問題になるのは、稼働状態へ改修するのに必要なパーツの供給問題です。半世紀前の戦車ですので、古くて製造終了しているパーツも多く、新規に製作するのもコスト面から難しくなっています。よく使われる解決策が、より程度の悪い車体から使える部品を取り外すいわゆる「共食い」です。

新ビジネス「中古戦車の再生事業」

 ドイツは2023年5月、ウクライナ向けにレオパルド1A5を30両追加供与すると発表していましたが、ラインメタルが仕入れたのは50両です。つまり、後のメインテナンスまで見越して、20両の「共食い」用まで仕入れたということになります。 企業がデッドストックしているレオパルト1は、ラインメタルが88両、フレンスブルガー社が99両、OIPが30両、ルアグ社が96両。合計313両あることがわかっています。ドイツ政府が承認すれば、これらも市場に放出できるようになります。ただしスイスの企業であるルアグは、同国政府があらゆる兵器の再輸出を禁じていることから、96両分は見込めないかもしれません。しかし、残り217両は納品可能在庫となります。 デッドストックだったレオパルト1を稼働できるように再整備するには、例えば射撃システムの交換で35万ユーロ、エンジンルームに使われているアスベスト除去に7万5000ユーロかかるといわれていますので、中古戦車の再生事業はビジネスチャンスになりえます。 さらに稼働できない程度の悪い戦車も「共食い」用として売れるとなれば、ほんの2年前までは見向きもされなかった半世紀前の旧式戦車にも、熱い視線が注がれてくるのは当然です。戦車市場の「神の見えざる手」は、どのように作用していくのでしょうか。

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