日本が作った「世界最速のエレベーター」その驚きの速さ 実現に新幹線のノウハウも 破れるかは“建物次第”なワケ

エレベーターの“速さ”は設置されている建物によってバラバラですが、世界最速のエレベーターは自動車並みだとか。ただ、世界的なトレンドは速さではない模様です。

1階から95階まで43秒で到達

 エレベーターのスピードはどれほどでしょうか。垂直に移動するため案外わかりにくいですが、一般的なエレベーターはおよそ分速40m(2.4km/h)~100m(6km/h)程度で動いています。しかし、世界トップクラスの速さとなると、実は首都高を走る自動車と同じぐらいのスピードが出ます。 なかでも2023年8月現在、世界最速のエレベーターは日立製作所が製造したものです。2017年6月2日にはエレベーターの速度試験で世界最高速となる分速1260m(75.6km/h)を記録し、2019年9月に世界最速としてギネス認定も受けています。

 このエレベーターは、中国・広州に立つ高さ530mの超高層ビル「周大福金融中心」(CTF金融センター)に設置されています。速度試験は現地で行われ、エレベーターの公的認定機関である中国の「国家電梯質量監督検験中心」から正式な速度認定を受けたそう。 日立グループで、エレベーターの製造・販売などを手がける日立ビルシステム(東京都千代田区)によると、実運用でも最高で分速1200mを出し、1階から95階までおよそ43秒で上り切るそうです。 世界最速のエレベーターは、どのような技術で実現したのでしょうか。

騒音対策に高速鉄道の技術

 そもそも速いエレベーターを作る場合、かご(搬器)を吊るロープの軽量化や、巻き上げ機に搭載されたモーターの出力大型化などが必要です。しかし、分速1260mというスピードを実現するにあたって大きなカギとなったのは、そのスピードに対応できる安全装置や制御装置の開発だったといいます。 エレベーターは人を運ぶ機械のため、トップスピードから急に止まるわけにはいきません。クルマのエンジンブレーキを効かせるように徐々に減速し、最後に、ロープの巻き上げ機のブレーキでロープを挟み込んで止めます。日立ビルシステムは以前、「自転車のリムブレーキでタイヤを挟み込むようなイメージ」と説明してくれました。

 そのようなスピードでも、かごの中はあくまでも快適でなければなりません。それを実現するため、揺れや騒音を抑える装置や、気圧の制御など、快適性を支える技術に新機軸が多く盛り込まれているといいます。垂直方向にかごの走行を案内する「ガイドレール」が設けられているほか、かごの四隅でそのレールに接する「アクティブガイドローラー」と呼ばれる装置が、感知した振動を打ち消す働きをするとのこと。また、急激な気圧の変化による耳詰まりを軽減するため、かご内の気圧も制御しているのだそうです。 加えて、かごの形にも工夫が。通常の箱型ではなく、上端と下端が丸みを帯びた「流線型」にすることで気流を受け流し、気流の乱れによる騒音を抑制しています。これは日立グループがもつ、新幹線をはじめとする高速鉄道の製造ノウハウも反映されているのだとか。鉄道車両の先頭形状を参考に、風洞実験をくり返して最適な形状にしたとのことでした。

世界的には実用性重視の傾向に

 ただ、速いエレベーターは高いビルでないと設置することができません。ビルが高くなればなるほどエレベーターも長い距離を移動できるようになるため、高速化を図れる余地がある一方、高さがないと、トップスピードに到達する前に移動が終了してしまうため、高速化は難しいのだとか。 また建物が高くても、途中で上のフロア用と下のフロア用にエレベーターを分割するような場合もあるため、さらなる高速化はそうした建物自体の条件も整っている必要があるといいます。 あるエレベーターメーカーによると、「世界一高いビル」「世界一速いエレベーター」というコマーシャルとしての価値を追求するビルも中にはあるものの、実際は「大人数を乗せることが可能で、そこそこ速い」というのが世界的なトレンドなのだとか。エントランス階でいかに人を滞留させず、効率的に上層階まで運ぶかという実用的な面が重視されるそうです。

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