日英伊の次期戦闘機に「サウジアラビア」参画? 英伊は歓迎 日本は反対 何をためらっている?

日英伊の3か国による次期戦闘機の開発計画に、サウジアラビアが参画の意向を示していると報じられています。英伊は歓迎の意向で、3か国共同開発の経緯からすれば当然かもしれませんが、日本は反対を貫くのでしょうか。

「GCAP計画へ入れて」サウジ要望か

 2023年8月11日付のイギリス大手経済紙「フィナンシャル・タイムズ」は、サウジアラビアが日本とイギリス、イタリアの3か国による新戦闘機「GCAP」の共同開発計画へ参画を求めていると報じました。

 同紙は日本、イギリス、イタリアにおける複数の匿名の政府幹部の話として、イギリスとイタリアがサウジアラビアのGCAP参画を前向きに捉えているのに対し、日本は反対の姿勢を示しているとしています。2023年7月に岸田文雄首相がサウジアラビアを訪問した際、同国のムハンマド皇太子から岸田首相に対して、参画の希望が伝えられたとも報じています。 日本ではこの報道に驚いた方も少なくないものと思いますが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は過去の取材体験から、サウジアラビアがGCAP計画への参画を希望するのは、不思議なことではないと感じました。 というのも、GCAP計画で開発される有人戦闘機はざっくり言うと、航空自衛隊のF-2戦闘機の後継となる「次期戦闘機」の開発計画と、イギリス空軍のユーロファイター・タイフーンの後継機を開発する「テンペスト」の開発計画を一本化したものだからです。 イギリスは2018年7月に同国で開催されたファンボロー・エアショーの会場で、テンペストの開発計画を含めた将来航空戦略を発表しています。筆者はこの場所で取材をしていましたが、同席した外国人ジャーナリストなどから、イギリスがテンペストの開発に他国の参画を求めるとすれば、日本やイタリアと共にサウジアラビアも有力な対象になりうるとの話を聞いていました。 GCAPはF-2の後継機であると同時に、イギリス、イタリア両空軍が運用しているユーロファイター「タイフーン」戦闘機の後継機とも位置づけられています。この「タイフーン」は、開発に参加したイギリス、イタリア、ドイツ、スぺイン4か国のほか、5か国に採用されていますが、サウジアラビアは開発参加国以外では最も早い2005年に、最も多い72機を導入しています。

むしろ日本の反対が緊張をもたらしている?

 サウジアラビア空軍で運用されているユーロファイター「タイフーン」の後継機は、GCAP計画で開発される有人戦闘機が最有力候補と目されています。 しかし、日本には防衛装備移転三原則があるため、現状で戦闘機の輸出は不可能。そこで政府与党内ではサウジアラビアなどへの輸出を念頭に置いて、GCAP計画で開発される有人戦闘機を開発参加国以外にも輸出可能とするため、防衛移転三原則の見直しを含めた議論が行われています。 ただ、サウジアラビアはもっと踏み込んだ要求をすることも予想されます。同国は過去、国内の航空防衛産業を育成する目的で、ユーロファイター「タイフーン」72機のうち46機の最終組み立てを同国内で行う計画を立てていました。この計画は諸事情により実現しませんでしたが、サウジアラビアが自国の航空防衛産業を育成したいという想いは衰えておらず、GCAP計画で開発される有人戦闘機を導入するとすれば、単なる輸入国以上の存在になることを希望するのは、当然と言えるでしょう。

 8月12日付の朝日新聞デジタルはイギリス国防省関係者の話として「サウジアラビアはイギリスの戦略的なパートナーの一つだ。我々はサウジアラビアを戦闘機計画における重要なパートナーと見ており、できるだけ早期に進展できるよう取り組んでいる」と述べたと報じています。 その一方で日本は、前出の通りサウジアラビアのGCAP計画への参画に反対しており、フィナンシャルタイムズは、日本の反対がGCAPの枠組みに緊張をもたらしているとまで報じています。

サウジ参画ならば多額の資金 受け入れれば反発?

 サウジアラビアはイスラム教シーア派などへの武力を行使しており、現状の防衛装備移転三原則では、防衛装備品の輸出ができない「紛争当事国」ともみなされます。 単純に防衛装備品を輸出することさえ困難なサウジアラビアをGCAP計画に迎え入れることになれば、国内世論などから反発を受けることは必至です。日本はその反発によって開発計画に遅れが生じることを懸念して、サウジアラビアのGCAP計画への参画に反対しているとも言われています。 他方フィナンシャルタイムズは、サウジアラビアがGCAP計画に参画することになれば、同国から多額の開発資金が投入されると報じています。

 現在の日本はF-2戦闘機を開発した1980~90年代に比べれば経済状況が悪く、国内で新戦闘機を単独開発するだけの財政的な余裕がないことも、日本がGCAP計画に参画した大きな理由の一つです。 F-2の退役開始が予想される2035年までに次期戦闘機、すなわちGCAP計画で開発される新しい有人戦闘機を航空自衛隊に就役させることはもちろん大切ですが、経済状況の悪化や財政難という、日本がGCAP計画に参画することになった理由を棚に上げ、開発資金を得る上で大きな助けとなりうるサウジアラビアの参画を拒絶し続けるのは得策ではないと筆者は思います。

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