自慢の設備が泣いている!?「ひかりレールスター」のいま 激レア化した「ひかり」運用に乗る

山陽新幹線の「ひかりレールスター」は、グリーン車に近い普通車指定席や4人用個室の設置などで評判でしたが、九州新幹線の全通後は活躍の場を減らし、現在では「ひかり」として走るのは1本のみ。これに乗りました。

定期「ひかり」では1本だけという皮肉

 山陽新幹線の700系7000番台「ひかりレールスター」は、航空機との競争に勝つ切り札として、2000(平成12)年に登場した車両です。それまでの「ウエストひかり」の高水準サービスを引き継ぎつつ、最高速度285km/hへのスピードアップを図ることで、最速列車「のぞみ」の退避を減らすことに貢献しました。  そしてこの車両には、1編成に4室だけの4人用普通個室が備わります。向い合せのリクライニングシート、大型テーブル、コンセントなどを備え、側扉も付いたハイグレードなもの。ただし、ほぼ乗れない“幻の設備”となっているのです。特に定期「ひかり」としては2023年現在、たった1本のみの運行です。

 そもそも「ひかりレールスター」は、「のぞみ」よりわずかに所要時間では長いものの、高品質なサービスで人気を博してきました。しかし2011(平成23)年に九州新幹線が鹿児島中央駅まで全線開業すると、脇役に転落していきます。 九州新幹線用N700系7000・8000番台は、「ひかりレールスター」で好評だった2+2列普通車指定席を踏襲し、さらにレッグレストや枕も備えた半室グリーン車も備えていました。山陽新幹線の速達ダイヤは、最高速度300km/hでの運行が可能な九州新幹線用のN700系に譲られたことで、「ひかりレールスター」は大幅に削減されたのです。 さらに九州新幹線には35パーミルの急勾配があるため、走行性能が劣る「ひかりレールスター」では直通できません。そうしたこともあり、「ひかりレールスター」は「ひかり」運用を追われ、各駅停車の「こだま」用車両として使われることが大半となりました。 2003(平成15)年に100系の、2004(平成16)年に200系のグリーン個室が消滅して以降、4人用普通個室は新幹線で唯一残った設備でしたが、基本的には「こだま」運用では販売されないため、“幻の設備”となったわけです。

実際に乗ってみた

 前出の通りただ1本だけ残るのが、新下関発岡山行き「ひかり590号」。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2023年7月、このレア列車に乗車しました。新下関発は、早朝の6時11分です。 3番のりばに停まる「ひかり590号」は「ひかり」なので、当然ながら8号車の普通個室も鎖錠されておらず、「個室」という正規表示で営業していました。 しかし、残念ながら個室利用客はいません。1~2人では利用できず、例えば1人で使う場合には「3人分の乗車券と特急券(個室券)を購入」するしかないため、とてもハードルが高い設備になっています。「個室料金」を別途設定して、1人でも使える料金にしてほしいものです。 なお、2023年7月時点では以下の「こだま」でも、個室の販売が行われています。・新大阪9時32分発→博多13時51分着(こだま845号)・博多13時54分発→新大阪18時25分着(こだま856号)・博多14時54分発→新大阪19時25分着(こだま858号)・博多15時54分発→新大阪20時25分着(こだま860号)「こだま」でも3~4人でしか利用できないことは変わりません。なお個室は、「e5489」などのインターネット予約サービスや、みどりの券売機では購入できないため、みどりの窓口に行く必要があります。 個室は3人以上で乗車すれば、普通車指定席と同一料金ですが、座席はリクライニングするソファタイプで座り心地がよく、先述の通り大型テーブルも備わり、一段上のグレードを感じさせます。 列車は車内放送でも「ひかりレールスター、岡山行きです」と流れ、デッキの情報表示器でも「Rail Star」のロゴが流れます。早朝のため乗客は少なく、編成全体で40~50人ほどが乗車していました。 厚狭駅を6時19分ごろに通過。これが「ひかり590号」唯一の通過駅で、ここを通過すると各駅停車なので、最高速度は最大でも260km/h程度と、スピードはさほどでもありません。 新山口着6時26分。この駅からは、6時36分発東京行き「のぞみ2号」に乗り換えられ、新大阪着は8時28分、東京着は10時57分です。2023年のダイヤ改正前は、新下関発6時42分の「ひかり592号」で「のぞみ4号」に乗り継ぎ、新大阪着9時7分、東京着11時36分でしたから、改善されています。新下関から東京方面に向かうには便利です。

「のぞみ」に抜かれないはずだったのでは?

 実質「ひかり」を終えた「ひかり590号」ですが、新山口駅でかなりの乗車があります。車内には高校生の姿も見られ、通学客もいるようです。 新山口駅を出ると、車窓左側に「SLやまぐち」用転車台を備えた下関総合車両所新山口支所が見え、多くの車両が目を楽しませてくれます。 徳山着は6時41分。ここでもかなりの乗車があります。ここで「のぞみ2号」に抜かれます。 新岩国駅は6時57分着。山陽新幹線で最も乗降客数が少ない駅で、閑散としていました。

 広島着は7時12分。早い時刻ですが、多くの人が乗り込み、座席の6割以上が埋まります。 広島を出ると、車窓右側に、プロ野球・広島東洋カープの本拠地であるマツダスタジアムが見えます。 東広島着7時23分。4分停車中に「のぞみ80号」が追い抜いて行きます。7時39分着の三原では、あまり車内の動きはない感じでした。 新尾道着は7時44分ごろ。ここでは「のぞみ82号」が追い抜いて行きます。 7時58分着の福山駅は「のぞみ」停車駅だけに、それなりの乗降があります。駅に福山城が隣接し、車窓左側に少しだけ見えます。 最後の途中停車駅である新倉敷駅には8時9分ごろ到着。ここでは「のぞみ4号」が追い抜いて行きました。「ひかりレールスター」は当初、「のぞみに追い抜かれないひかり」として全体の高速化に貢献する存在として生まれたので、複雑な気持ちとなります。『いい日旅立ち』が流れ、「次は岡山」の案内が表示されます。車窓右手には、JR西日本岡山新幹線運転所や在来線の基地が見えて来ます。「ひかりレールスター」の個室は現代の視点でも快適な設備であり、もっと活用されて欲しいと感じました。旅行商品として販売されても、面白そうだと思います。少しでも長い活躍を願いつつ、列車は8時23分、定刻通りに岡山駅に到着しました。

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