「キャタピラじゃない戦車」なぜ増えた? 「これでいいじゃん」「やっぱ戦車じゃなきゃ」の声も

21世紀に入ってから、世界の陸軍で履帯(キャタピラ)を使用しない、タイヤを履いた戦車が増えています。これらの車両は正式には戦車ではありませんが、「装輪戦車」と通称で呼ばれ、戦車の任務の一部を代行しています。

「装輪戦車」は21世紀のトレンド兵器

 21世紀に入ってから、世界の陸軍で履帯(キャタピラ)を使用しない、タイヤを履いた戦車が増えています。これらの車両は正式には戦車ではなく、「装輪戦車」と通称で呼ばれています。戦車も破壊可能な砲塔を備えた装輪装甲車という意味です。

 こうしたタイプの車両を積極的に運用し始めたのは第2次世界大戦後のフランスで、1954年から1962年までアルジェリア戦争でEBRという装甲車を投入します。 そこで偵察や戦闘など幅広い任務に使えるという実績を得た後、通常の偵察以外に戦闘を伴う威力偵察にも使う目的で、装甲車に戦車に対応できる攻撃力をつけたAMX-10RCという車両を開発。1970年代以降、レバノン紛争、チャド紛争、湾岸戦争、ユーゴスラビア紛争と数々の戦場に投入され、実力を発揮しました。 AMX-10RCの利点は、キャタピラを持つ戦車より軽量で済み、整地面や若干の悪路程度であれば戦車より高速である点です。さらに、燃費もよく長時間の任務にも優れ、高い火力も兼ね備えています。そのため、防御力こそ戦車には劣りますが、輸送機や船、列車での輸送も戦車より容易な身軽さを活かし、幅広い任務に、臨機応変に素早く戦場に投入できるという評価を得ていきました。また、振動が戦車より少ないため、故障率が低いことも好まれる理由となっていました。

ウクライナでの評価は芳しくなく

 20世紀末には東西冷戦が終了した関係で、世界的な軍縮傾向になった関係もあり、これまで戦車が担っていた役割の一部をコストが安く済む装輪戦車で代行しようと、フランスのほかにも、1990年代にイタリアが「チェンタウロ」を、2000年には南アフリカが「ロイカット」という装輪戦車を採用します。 そして、2007年にはアメリカ陸軍もM1128「ストライカー」MGSの配備を開始。この件に影響を受け、日本の陸上自衛隊でも、2016年から16式機動戦闘車の調達・配備を開始します。 こうした需要増加には東西冷戦終了後の北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構の間で1990年11月に結ばれた、「ヨーロッパ通常戦力条約」があったことも影響しています。この条約では戦車保有数を削減することが求められていたため、戦車と似たような火力と走破性を備え、戦車の扱いをされない「装輪戦車」の需要が伸びたわけです。 また、21世紀になり、テロ組織やゲリラとの戦いが多発したことも需要増に影響しています。国内や近隣国に潜伏したテロリスト攻撃に備え、歩兵や他の軍用車両などと共に現場に急行できる装輪戦車がさらに重要視されるようになったからです。

 しかし、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、フランスから供与されたAMX-10RC装輪戦車が、直撃ではなく至近距離に着弾した砲弾の破片だけで大きな損傷を受けたという報告がありました。ウクライナ軍では前線では使えないという評価になっており、さらに2023年5月にはロシアが「ヨーロッパ通常戦力条約」から脱退しました。そのような経緯もあり、ほかの国でもやはり戦車の代わりは無理と判断され、運用方法に変化が起きる可能性もあります。

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