「ウクライナをNATOへ」の証? レオパルト戦車の大量供与に見える“戦後” ロシア系兵器一掃か

ロシアと戦うウクライナに対し、2023年に入ってから米英仏独などが次々と戦車や戦車駆逐車といった第一線級といえる陸戦兵器の大量供与へ動き出しています。もしかすると、これはすでに“戦後”を見据えた動きともいえそうです。

主力戦車の大量供与がウクライナにもたらす副次的効果

 ドイツは、ロシアと戦い続けているウクライナを支援するため、主力戦車「レオパルト2」の供与を2023年1月に決めたのに続き、一世代古い予備保管中の戦車「レオパルト1」も引き渡すと2月上旬に明言しました。なお、それと前後してイギリスとアメリカも、それぞれ「チャレンジャー2」、M1「エイブラムス」という両国の主力戦車を供与することを決めています。

 これ以外にも米英仏独をはじめとしたNATO(北大西洋条約機構)加盟国は、「ゲパルト」対空戦車、M2「ブラッドレー」や「マルダー」といった歩兵戦闘車、AMX-10RC戦車駆逐車、トラックタイプの「カエサル」装輪自走砲、PzH2000自走砲、牽引式の各種155mm榴弾砲など、ありとあらゆる兵器類をかき集め、弾薬類とともに、支援のためウクライナに送り続けています。 このような兵器の大量供与は、とうぜんウクライナがロシアに対抗できる戦力を維持するためのものですが、筆者(白石 光:戦史研究家)は別の意味も含んでいると見ています。それが「ウクライナのNATO化」です。 そもそも、これら西側各国からの供与車両や兵器は、砲弾、銃弾、燃料やオイル類などの消耗品、そして構成部品の一部も、NATOの標準規格で仕様が統一されています。 ウクライナはいまでこそ独立国ですが、かつては旧ソビエト連邦の一部であり、国内に戦車などのソ連製兵器を開発・生産する軍需工場を擁していました。1991年にソビエト連邦が崩壊し独立国となってからも、国内の軍需産業は貴重な外貨獲得手段として営業し続けます。ただ、旧ソ連(現ロシア)規格の兵器で統一が図られていたことから、ウクライナ軍の装備はロシア規格のものが中心であり、輸出用も含めてウクライナで新しく開発される兵器の大部分も、ロシア規格で製造されていました。 だからこそ、ウクライナは侵攻当初にロシア側が遺棄した戦車などを容易に再利用することができたのです。

既定路線化しつつあるウクライナのNATO加盟

 その一方、現在のウクライナ国内の軍需品の生産能力では、今回の紛争において最前線で損耗される莫大な量をカバーしきれません。そこで苦戦する同国を物量面から支援するべく、NATOを始めとした西側各国は各種兵器や軍需関連物資を大量に供与するようになりました。 初期には、ウクライナ軍の規格に合わせて、東ヨーロッパ諸国からロシア規格の兵器が供与されましたが、損耗分の補充に加えて質的・量的なフォローも果たすべく、続いてアメリカ規格とも呼ばれるNATO規格に合わせた兵器の供与も始まりました。

 その結果、ウクライナ軍内部には、従来のロシア規格の兵器と、新しく入手したNATO規格の兵器という、いわゆる規格の「二本立て」が生じています。もちろん、燃料やオイル類などについてはどちらの規格でも大差はありません。しかし銃砲弾などは、ほぼ互換性がないといえるでしょう。 ただでさえ、互換性のなかった各種大砲や自走砲などに加え、今度はそこに「レオパルト2」や「レオパルト1」、M1「エイブラムス」などの大量供与が決まりました。これら戦車はウクライナが渇望していた兵器とも伝えられていますが、陸戦兵器の目玉たる戦車にNATO規格の車種が大量に入ってくるのは、ある意味、ウクライナ軍全体がいずれは従来のロシア規格からNATO規格への移行を決定したことの表れだと言えるでしょう。 規格の移行が始まってしばらくのあいだは、補給の面でやっかいな「二本立て」の規格に対応し続ける必要があります。しかし兵器は消耗品であり、ロシア規格の各種兵器が苛酷な実戦下で使い潰された後に、NATO規格の同様の兵器が補充されることで、一定期間のうちに後者への移行は終了すると考えられます。 この規格の移行は、当然ながら「戦後」も見据えたものです。終戦(停戦)となるのが移行の途中、あるいは移行後なのかはわかりませんが、「舵がきられている方向」は間違いなく、ウクライナのNATO加盟だと読み取ることができます。 そして、「NATO規格の塊」ともいえるレオパルト1および2や、M1エイブラムスといった主力戦車の大量供与決定こそ、アメリカをはじめとしたNATO諸国が、将来的にウクライナがNATOへ加盟するのを認めたという証左であると同時に、そのようなNATOの意向を示すことで、戦況によっては核の使用を匂わせるロシアを牽制するための、間接的な強いメッセージでもあるのではないかと筆者は捉えています。

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