【インタビュー】長野風花 蓄えた力と想いを未来のため、日本のために

 FIFA女子ワールドカップオーストラリア&ニュージーランド2023を7月に控えるなでしこジャパン(サッカー日本女子代表)。2011年W杯で世界一、12年ロンドン五輪で銀メダル、15年W杯で準優勝と輝かしい実績を残してきたが、この数年は結果が出ず、自国開催の東京五輪もベスト8に終わった。

 東京五輪後、世代別代表で成果を残した池田太新監督を迎え、再びトップシーンへ返り咲くべく、歩みを進めている。その中心選手の一人として活躍が期待されるのが長野風花だ。

 世代別代表で池田監督とともに世界一に輝いた長野は将来を嘱望されつつも、すぐにA代表定着とは至らなかった。しかし、浦和レッズレディースから韓国への移籍を経て、ちふれASエルフェン埼玉で力を蓄えると、池田体制となったなでしこジャパンにも定着。2022年は夏にマイナビ仙台レディースからアメリカへと渡り、2023年1月にリヴァプールへの移籍が決定した。中盤で攻守の鍵を握る存在として、期待がかかる長野に、ここまでのキャリアやなでしこジャパンの現在地などを、FIFAワールドカップカタール2022が開催されていたドーハの地で聞いた。

インタビュー=小松春生
取材協力=アディダス

―――2022年11月になでしこジャパンとしてヨーロッパ遠征でイングランド(●0-4)、スペイン(●0-1)と対戦しました。

長野 このタイミングで強豪国とできたことは自分たちにとってプラスでした。もちろん結果は負けで、一人ひとりがより深く考えなければいけないと思います。ワールドカップまで時間は短いですが、チームでも個人でも質と精度をもっと高めて、チームとしてやりたいことを共有していければ、もっともっと戦えるなと私は率直に思いました。

―――2021年10月に池田太監督体制となり、ここまでのチームとしての完成度はいかがでしょう。

長野 2022年10月の親善試合2試合で初めてチームとして3バックをやって、11月も強豪国相手に試してみて、やはり強い相手とやらないとわからない部分がありました。私自身は3バックになっても原則は変わらないですが、他の選手との距離が遠くなるので、スライドが多く、イングランド戦でもかなり動く必要がありました。あとはボールを奪った後、DFからボールを受けて前につなげるシーンをもっと増やさないといけないことも課題です。選手たちは3バックに慣れていない部分も少なからずありますが、課題を改善できるようにたくさんチャレンジして、ワールドカップで勝てるように準備していきたいです。

―――ご自身は2022年7月にアメリカのノースカロライナ・カレッジに移籍しました。

長野 いままでは日本国内でプレーし、代表の時に外国人選手とプレーしていたので、海外の選手と戦うときにギャップをすごく感じていましたが、アメリカではイングランドの選手より速い選手もいたりするので、11月の試合ではこれまでのようなギャップや驚きを感じませんでした。今までだったら焦ってしまったところでも、落ち着いて相手をしっかり見ることができてきたので、そこはアメリカに行って慣れた部分ですね。

―――余裕ができたというより、順応してきたから体が自然に動くイメージですか?

長野 そうですね。相手からのプレッシャーが今まで以上に迫力があるので、そういう環境で日々プレーできているのは自分にとってとてもいいことだと思います。

―――ここまでのご自身のキャリアはどう自己評価されていますか?世代別代表で注目を集めましたが、すぐA代表に定着とはなりませんでした。クラブでも韓国への移籍も経験し、欧米でのプレーは7月にようやく実現となりました。

長野 U-17とU-20での世界一はすごく嬉しいことですが、アンダー世代はまったく別物なので、今はそこに対してのこだわりはありません。なでしこジャパンとして、19年のフランスワールドカップや21年の東京オリンピックに絡めなかったことが自分の実力だと思っていますし、ちふれASエルフェン埼玉、マイナビ仙台レディースでもう一度一から学び、アメリカへと渡ったことで、すごくいい道を進めてきていると思います。

―――自分の中で力を溜める期間があったからこそ、いいテンポでキャリアを進めている実感があると?

長野 そうですね。フランスW杯の時に、私がなでしこに選ばれていたとして、実際にスペシャルなプレーができたかと言うと…。それが自分の実力でしたし、納得しています。やらないといけないことがまだまだありましたし、だからこそ、ちふれで2年間サッカーを“学べた”ことは、人生で一番プラスな出来事で、一番濃い時間でした。それを溜めて、溜めて、溜めて…。まだまだ足りないことだらけですけど、今、代表でプレーできているのは、本当に幸せなことだと思います。

―――アメリカへ移籍されましたが、ヨーロッパも選択肢としてあったと思います。

長野 ヨーロッパでプレーすることが小さい頃からの目標、夢です。代表で世界と戦うのと同時に、いずれはヨーロッパでプレーし、チャンピオンズリーグに出て、クラブでもそういう舞台に立ちたい思いは強くあります。

―――アメリカでプレーして、日本と女子サッカーに対する認知度や注目度の違いは感じましたか?

長野 それは一番感じています。日本はWEリーグを立ち上げましたが、難しい部分もまだまだあると思います。アメリカは男子サッカーよりも人気がありますし、それが継続している。いろいろな層のファンが多いですし、どうしてこんなに人が来るのだろうとも思います。アメリカは女の子がまずサッカーを始めるような国なので、女性の観客が多いですね。

―――例えばイングランドでも同性の観客比率について、男子サッカーより割合が多く感じます。日本とのそこのギャップはいかがでしょう。

長野 難しい部分ですね。言ってしまえば、『見に行きたいと思わないから来ない』わけなので。アメリカでは選手が憧れの存在であるし、カッコいい。女の子も目をキラキラ輝かせて、「サインください」と言ってくれます。アイドルみたいな存在ですね。日本にはスポーツ以外にも楽しいことが身近にたくさんありますが、海外ではスポーツが一番で、他にすぐ楽しめる娯楽が少ないことも理由の一つとしてあると思います。

―――だからこそ「結果を出さないと」に戻ると?

長野 代表は強くなければいけなくて、どんな強豪国にも負けてるようではダメで。まずは自分たちが競技に集中して、結果を残すことが一番です。口では簡単に言えますけど、でもやはりそこが一番大事だと思います。

―――今回カタールで初めて男子のワールドカップを生で観戦する機会ができました。

長野 国を背負い、真剣勝負で戦う選手の姿は私も見ていて刺激を受けましたし、一つひとつのプレーが激しく、魂がこもっていて。改めて私もそういう舞台で戦いたい、と思いました。

―――国を背負って戦う意識はなでしこジャパンとして戦うごとに強くなっていますか?

長野 代表に選ばれることは常に光栄ですし、私たちが未来のサッカー少女のために結果を残したいとも思います。今まで、澤穂希さんをはじめ、たくさんの先輩方が世界で戦って結果を残してきたからこそ、今私たちが「日本人っていいよね」と海外で評価してもらっている部分もあるので、将来の選手たちのためにも、日本のためにも戦わなければいけないと強く感じています。

―――どうしても男子サッカーと同じ目線で見てしまうケースが多いです。女子サッカーならではの楽しみ方もあると思います。

長野 男子サッカーのレベルはとても高いと思いますが、女子も世界的にレベルが上がってきています。スピードが遅いなど、男子サッカーを見ている方には女子サッカーに対して、なかなか物足りなさを感じることもあるとは思います。でも、巧い選手もたくさんいますし、丁寧なプレーや細かい動きなど、注目してもらいたい部分がたくさんあります。なでしこらしく、ひたむきに戦っている姿を見てほしいですね。

―――その中で改めて、なでしこのどういった部分を見てもらいたいですか?

長野 頑張って、頑張って、泥臭くても何か心に残るもの、心から応援したいと思っていただけるようなプレーをしていく必要があると思っています。もちろん結果も大事ですけど、サッカーを楽しんでいる姿を見ていただくことも、そこに繋がると思っているので、自分ためにも、周りの方々のためにも、そういう姿勢は見せ続けていきたいと思います。

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