兵器が「ハマる」とは? ウクライナで重宝される独製旧式兵器と北朝鮮無人機侵入事件

「ところ変われば」という言葉を体現しているのが、ドイツ製対空自走砲「ゲパルト」でしょう。本国で陳腐化していた兵器が、ウクライナでは大いに重宝されています。それはおよそ「兵器」というものの本質に関わることでもあります。

韓国を震撼させた北朝鮮無人機侵入事件

 クリスマスのお祭り気分も明けやらぬ2022年12月26日、北朝鮮の無人機5機が韓国領空を侵犯し、韓国軍はいずれも迎撃に失敗するという事件が発生しました。さらに2023年1月5日になって、韓国軍はその内の1機がソウルの大統領府がある飛行禁止区域にまで侵入し、偵察活動をして北朝鮮に戻っていたことを認めました。韓国では防空体制の見直しに大わらわになっています。

 一方、12月3日のロイター通信によると、ドイツがウクライナに供与した自走対空砲「ゲパルト」は、11月までに10機以上のイラン製自爆ドローン「シャヘド136」と2機の巡航ミサイルの破壊に成功していると伝えています。一目標を撃破するのに使用したエアバースト弾は、6発から10発とされます。 さらに12月6日には、「ゲパルト」の飛行目標を撃墜する動画がTwitter上に投稿されました。「ゲパルト」が実戦で目標を撃破する映像が公開されるのは初めてだと思われます。ウクライナ軍関係者によると、目標は巡航ミサイルだったとのことです。 2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受けて、4月26日にドイツは自走対空砲「ゲパルト」50両と機関砲弾1万発のウクライナへの供与を表明します。「ゲパルト」は、ドイツでは1973(昭和48)年に配備が開始され2010(平成22)年に退役している旧式車で、現代戦では有効性が疑問視されていました。しかも肝心の機関砲弾の供給にまごつくなど、ドイツのウクライナ支援に対する微妙な政治的立ち位置を感じさせるもので、西側に支援姿勢をアピールする外交ツールのようにも見えました。 その後、2022年9月20日までに「ゲパルト」30両と機関砲弾6000発が納入され、ウクライナ軍によれば、同年9月26日までにノルウェー製機関砲弾約5万発が届いているとのことです。

なぜ「ゲパルト」はハマれたのか

 兵器に限らずですが、何かしら製品を手に入れるならより新型高性能なものを求めるのは、ごく一般的な動向でしょう。国の命運を委ねることにもなる兵器ともなれば、その傾向はより顕著になります。しかし兵器が有効に働くには、ただ高性能なだけでなく「必要な時に、必要な物が、必要な数だけ」という原則があります。 旧式車で決して高性能とは言えない「ゲパルト」は、ウクライナ軍では高く評価されています。上記の原則にハマったからです。「ゲパルト」では対抗するのが難しいと思われるロシア軍有人機の活動は不活発で、そうしたなか現状で脅威となっている無人機や巡航ミサイルに一定の有効性を示しました。

 機関砲弾は、対空ミサイルと比べれば安価でコスパに優れ、対外的な影響が最小という効果もあります。ウクライナ軍は長射程対空ミサイルも持っており、ロシアがウクライナ国内へ向けて使用する巡航ミサイルを標的とすることは可能なのですが、ロシアはその巡航ミサイルを、ウクライナの対空ミサイルが隣国ポーランドやベラルーシとの国境に向かって飛翔せざるを得ないような経路を突いて飛ばすなどしています。そして実際に、目標を撃ち漏らしたウクライナの対空ミサイルがそれら隣国へ落下する事件が起きています。 しかし、射程の短い対空砲にそのような心配はいりません。「ゲパルト」は射程の短さも旧式化の要因でしたが、これがかえって有効に働いているのです。

なぜ韓国は北朝鮮の無人機を迎撃できなかったのか

 北朝鮮と対峙する韓国軍は、長い時間と高いコストをかけて防空システムを構築してきたはずです。しかし12月の事件では有効な働きができなかったのです。どうしてでしょうか。ウクライナの「ゲパルト」とは逆に、「必要な時に、必要な物が、必要な数だけ」という原則にハマらなかったのが原因のひとつと筆者(月刊パンツァー編集部)は考えます。 韓国軍は無人機を迎撃するのに戦闘機と攻撃ヘリコプターを緊急発進させ、100発以上射撃したようです。その効果が無かったのは、墜落した機体や砲弾の破片や流れ弾で地上に被害が出ることを恐れ、射撃範囲を限定したからといわれます。 空中戦闘では、地上への影響は避けられません。防空シェルターは敵機の攻撃を避けるだけでなく、味方射弾を避けるという意味もあります。いくら高性能な防空システムをそろえても、実際に使うためには、地上の被害を減らす防空シェルターなどの防護設備や、防空警報を発出するためのシステムの構築など、複合的な整備が必要です。韓国の防空システムは「必要な時に」「必要な物が」揃えられなかったのです。

 韓国の問題はそのまま日本にも当てはまります。ウクライナ情勢や中国の動きを受けて昨年末、発表された防衛三文書にて、日本の防衛政策は大きく転換されました。装備品調達にも多くの予算が振り向けられることになったものの、「必要な物を必要な時に必要なだけ」という視点からの評価も必要です。 時間と費用をかけて開発した高性能兵器であっても、役に立たなかった例はいくらでも挙げられます。かといって無人機が脅威だからコスパに優れた自走対空砲を導入しろ、というのも、防空シェルターひとつないのにナンセンスな話です。 限られた資産の中で優先順位をどうするのか。「必要な物を必要な時に必要なだけ」というのは、頭で分かっていても簡単なことではないのも確かです。

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