朝起きたら別の国に…はあり得るの? 「国境の変更」を巡る国際ルールとその事例

国が異なれば交通ルールもだいぶ変わってくるものですが、ではある日突然、目が覚めたら国が変わっていた、などということはあるのでしょうか。「国境」の変更をめぐり国際社会、ひいては人類は、どのように整頓してきたのかというお話。

国が違えばルールも違う

 2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大も、4年目を迎えました。ワクチンの接種などが進んだこともあり、2022年末現在、感染拡大当初よりも人々の行動の幅は大きく広がってきています。 その具体例のひとつが、出国日本人数の増加です。「日本政府観光局(JNTO)」の統計によると、昨年(2021年)の出国日本人数の合計が51万2200人であったのに対して、今年(2022年)は11月までに233万9600人と、大幅に増加していることが分かります。

 ところで、外国を訪れる際に注意しなくてはならないのが、日本とのいろいろなルールや法律の違いです。それは身近な交通ルールひとつとっても、さまざまな違いが浮かび上がります。 たとえば、2017(平成29)年度に北海道運輸局が委託実施した調査(「外国人旅行者のレンタカー利用に係る安全性確立に向けた調査実証事業」)によると、日本では禁止されている飲酒運転が、東南アジアに位置するシンガポールでは必ずしも禁止されていないようです(ただし、アルコール濃度による取締り基準はあります)。 また、「FIA(国際自動車連盟)」が調査したところによると、自動車の制限速度について、日本は一般道が時速30kmから60km、高速自動車道路が時速70kmから100km程度(一部を除く)であるのに対して、フランスでは高速道路が時速130km、一般道路が時速90kmとなっています。 このように、身近な交通ルールだけでも国が変わればこれだけの違いがあるわけですが、たとえばある日起きたら自分の住んでいる国が別の国になっていた、なんて話はあり得るのでしょうか。

国境線が変わる? 国際法のルールとは

 実は「ある国やその一部が別の国になること」は、あり得ない話ではありません。国際法上、何らかの権利が生じると認められる事実のことを「権原」といい、なかでもある国が領域を正当な形で新たに手に入れることに関する事実のことを「領域権原」といいます。領域権原にはさまざまな種類がありますが、一般的には、どこの国にも属していない場所を自国のものにする「原始取得」と、他国の領域を引き継ぐ「承継取得」とに分類して説明されます。 ここでは、後者の承継取得だけに限って見ていくことにしましょう。伝統的な国際法の下では、「割譲」「併合」「時効」「征服」の4つが承継取得に分類される領域権原として取り扱われてきました。

「割譲」とは、国家間の合意に基づいて自国の領土の一部を他国に譲ることで、たとえば1875(明治8)年に日本とロシアとの間で結ばれた樺太千島交換条約などがそれにあたります。一方、「併合」とは、自国の領土を全て他国に譲ること、あるいは他国から全ての領土を譲り受けることで、つまりひとつの国家が消滅することを意味します。比較的最近の例では、1990(平成2)年に西ドイツが東ドイツを併合する形で東西ドイツが統合されたことが挙げられます。そして「時効」とは、他国の領域を一定期間平穏に占有することによって自国の領土とするものです。 問題となるのは、最後の「征服」です。これは、武力を行使することによって他国の領土を全て支配するというもので、他国の領土を全て自国のものとする点で、前述した併合と共通していますが、併合はあくまでも両国間の同意に基づいて行われるのに対して、征服は強制的に行われるという点で区別されます。

ロシアによるウクライナ領土の奪取は合法?

 では、2022年末現在行われているロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシアがウクライナの領土を奪うことは、「征服」として合法ということになるのでしょうか。もちろん、そんなわけはありません。 そもそも、「征服」は現在の国際法上は違法とされています。というのも、20世紀半ば以降の国際法では、攻撃を受けた際に反撃する自衛権の行使など一定の例外を除き、戦争を含む武力行使が禁止されています。そのため、武力行使によって取得した領域を国際社会は容認してはならないこととされているのです。

 たとえば、1970(昭和45)年に国際連合(国連)総会で採択された「友好関係原則宣言」では、その第1原則の中で、国家の領域は武力の行使やその威嚇の結果として取得する対象としてはならず、さらに各国はそのような方法で取得された領域を合法なものとして承認してはならないとされています。 また、1990(平成2)年のイラクによるクウェート侵攻において、イラクはクウェートを併合したと主張しましたが、国連安全保障理事会はこれを完全に否定しています(決議662)。従って、ウクライナの領土がロシアのものになるということは、強制によらない形での合意に基づかない限りはあり得ないのです。 国際法上、国家間で合意に至れば自国領土が他国のものになることは、現代でもあり得ない話ではありません。しかし、朝起きたら突然別の国になっていたなんてことは、少なくとも法的にはおよそ考えられないでしょう。

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