北川さん、「無用の用」未来を開く=批判に負けず、新分野―空気から資源・ノーベル賞

 一見役に立たないものが、実は役に立つ。ノーベル賞に選ばれた北川進さんは、中国の思想家・荘子が説いた「無用の用」を座右の銘としてきた。北川さんが開発した極小のジャングルジムのような多孔性材料は、何もない空間に気体を取り込むことで機能を発揮。環境、エネルギー問題の解決に役立つ可能性を秘めている。
 北川さんは京都市出身。下京区で育ち、市立塔南高校(当時)から京都大工学部に進んだ。大学に入ると、近くの書店でノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士の著書「天才の世界」シリーズに出合い、その中で荘子の思想を知った。「説得力があり、大きく影響を受けた」という。
 大学ではノーベル化学賞を受賞した福井謙一博士の流れをくむ量子化学を学んだ。当時盛んだった石油化学産業への就職を考えたが、恩師で福井博士の直弟子に当たる森島績京大名誉教授に誘われ研究者の道へ。「新しい分野をつくる」という意欲で取り組んできた。
 専門は金属分子を組み合わせた化合物「金属錯体」。多孔性材料は専門外だったが、金属イオンと有機分子を組み合わせた画期的な新材料の合成に成功した。
 1997年に発表すると、活性炭やゼオライトといった代表的な多孔性材料と比較され、「わざわざ有機物で高い物を作って何になるのか」と批判を浴びた。米国で開かれた研究者の会議では発表するそばから厳しく批判され、朝食の席でも「お前は間違っている」と言われた。
 北川さんは「新しいものが出るとたたかれる。日本でもうそだと言われた」と振り返る。だが、北川さんの多孔性材料はきちんと合成すれば同じ構造でしっかりした物ができた。今は年間8000~9000もの論文が発表され、世界中で激しい競争が起きている。
 北川さんは2000人が集まる国際会議で基調講演を依頼されるようになり、「この分野が育ってきた」と実感している。例えば、多孔性材料を使って空気から炭素など資源になる物質を取り出せれば、資源やエネルギー、環境、医療などの問題解決につながると考えている。
 「地下資源を持たない国でも地球の恩恵を受けられる。空気のようなものを自由に使える技術があれば、領土問題や紛争も起きない」。北川さんは若手研究者に対し、「サイエンス(科学)が平和に貢献する時代になってきた。若い人が何十年もかけて実現する必要がある」と期待している。 
〔写真説明〕記者会見後に湊長博総長(右)と笑顔で握手する京都大の北川進特別教授=8日午後、京都市左京区

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