
参院選で大敗した自民党内で、非主流派に長年甘んじてきたベテランが独自の存在感を示している。石破茂首相(党総裁)に退陣を求める動きとは一線を画し、それぞれの立場で「あるべき論」を説く。悲哀を味わってきた首相への共感や旧安倍派への反発が背景にあるようだが、党内からは「ポスト目当て」などと冷ややかな声も漏れる。
「確実に本人の意思だと確認しなければならない」。総裁選挙管理委員会の逢沢一郎委員長は19日の総裁選管会合後、記者団にこう強調した。
会合でテーマとなったのは、総裁選前倒しを要求するかどうかの意思を党所属国会議員と都道府県連に確認する方法だ。記名を伴う書面での提出を強く主張したのが逢沢氏。委員から匿名を主張する声が上がると、「総裁の身分に関わる意思確認が無記名でいいのか」と反論した。
世論調査では首相の続投を支持する声も少なくない。総裁選前倒しを求めた議員名などが特定されれば有権者の反発も予想されることから、党内から「前倒し派へのけん制だ。ハードルは上がった」(自民幹部)との声も出ている。
逢沢氏は首相と初当選同期の衆院当選13回だが、党4役や閣僚の経験は一度もない。逢沢氏と同様に不遇に耐えてきた立場から発信を続けるベテランの一人が船田元氏だ。
当選回数では党内で麻生太郎最高顧問の15回に次ぐ14回を数えるものの、華々しいポストとは縁遠い。その船田氏は参院選直後から「政局化を容認する余裕は全くない」と「石破降ろし」の動きを批判。18日にはウェブサイトで「続投が最善の選択」とぶち上げた。
23年ぶりに復党した鈴木宗男参院議員も、娘の鈴木貴子衆院議員が「石破降ろし」に動くのとは対照的に、首相支持を繰り返し打ち出す。
「辛酸をなめてきた者のシンパシーは深い」。自民関係者はこう語る。首相を支える衆院当選13回の村上誠一郎総務相は参院選直後の記者会見で、目に涙を浮かべつつ「今回の結果が石破氏個人の責任だったのか」と首相を擁護。「十数年やってきた問題が噴き出した」と、旧安倍派などの裏金問題を敗因に挙げた。
船田氏もウェブサイトで「党の負の遺産も大きな原因」と村上氏と同様の見解を示す。両氏の言葉には「彼らに見向きもしなかった旧安倍派への反発」(自民関係者)も見え隠れする。
もっとも、首相が「必達目標」に位置付けていた与党の過半数確保を果たせず、民意に「ノー」を突き付けられたのも事実だ。麻生派若手は「せめて前倒し総裁選で信任を得てから続投しなければ、政権の正当性が保てない」と指摘する。
〔写真説明〕自民党総裁選挙管理委員会の初会合であいさつする逢沢一郎委員長=19日、東京・永田町の同党本部