
5年に1度の年金制度改革の関連法が13日、成立した。少子高齢化の影響で将来世代の給付水準の低下が見込まれる中、厚生年金の積立金を活用して基礎年金を底上げする方策が盛り込まれた。しかし、足元の少子化に歯止めはかからず、底上げ策を実行しても効果が弱まる可能性がある。有識者からは現行制度の「限界論」も出ている。
◇目減り調整が長期化
政府は2004年から、少子高齢化でも年金制度を維持できるよう「マクロ経済スライド」を採用している。現役世代が支払う保険料に上限を設ける一方、財政が均衡するまで年金額を抑制する仕組みだ。発動は物価や賃金の上昇が前提で、デフレが長年続いたためこれまで6回しか実施できていない。
その結果、高齢世代の給付水準が想定より高止まりする一方、「将来世代は目減りの期間が長くなった」(厚生労働省幹部)。昨年公表された年金の財政検証によると、財政が脆弱(ぜいじゃく)な基礎年金は57年度まで目減りが続き、給付水準も現在より約3割下がる。この結果、現在、40~50代の「就職氷河期世代」を中心に低所得層が老後に貧困化するリスクが高まっている。
◇「流用」批判、止まらず
こうした事態を回避するために編み出されたのが、今回法律に盛り込まれた基礎年金の底上げ策だ。財政が比較的豊かな厚生年金の積立金を活用して、目減り調整の終了時期を37年度ごろに前倒しして、期間を短縮。さらに基礎年金の半分を賄う国費も追加投入して給付水準を約3割改善させることを目指す。
ただ、SNS上には「サラリーマンの払った厚生年金保険料の流用だ」という批判があふれ、底上げ策への国民的な理解は広がっていない。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主席研究員は、「世代間や世代内で支え合うのが社会保障だ」と指摘。サラリーマンが負担する厚生年金保険料には、現行でも基礎年金の給付に充てる分が含まれており、「底上げ策への誤解も徐々に解けるはず」と話す。
夏の参院選を控え、財源に関する国会審議も盛り上がらなかった。基礎年金の半分は国庫で賄うため、底上げされると国庫負担も増える。その規模は最大年2兆円台に達する見込みだ。政府関係者は「安定財源を充てる必要がある」と述べ、増税が選択肢にあることを認める。
◇支給開始年齢上げも
年金財政は、出生率と経済動向の影響を強く受ける。足元の合計特殊出生率の実績値は23年は1.20、24年は1.15と、財政検証で用いた仮定値の1.36を大きく下回っている。経済の先行きも不透明感が増しており、駒村康平慶応大教授(社会政策)は「年金財政が悪化した場合、底上げ策の効果も弱まる可能性がある」と指摘する。
少子化がこれ以上加速すると、マクロ経済スライドだけでは年金財政の長期維持が困難になる事態も想定される。駒村氏は「与野党と有識者で年金改革を議論すべきだ。あらゆる選択肢を検討すべきで、支給開始年齢を65歳から引き上げる議論も排除すべきでない」と強調する。米国は27年までに支給開始年齢を67歳に引き上げる予定で、日本でも超高齢化と少子化加速を見据えた対応が引き続き求められる。
〔写真説明〕年金制度改革法案を賛成多数で可決した衆院本会議=5月30日午後、国会内