▼「気持ち」の交流と「絶対的価値」
※前半で行われたパネルディスカッション。手前が田村市長、真ん中がトラストバンクの須永氏、右端がNPOアロンアロンの那部智史氏
須永氏がもうひとつ評価しているのが、ふるさと納税の返礼品の発送で障害者雇用を生み出している点です。八幡平市からの返礼品は、障害者施設で梱包・包装され発送しています。返礼品で杜仲茶ポークのベーコンを受け取ったある参加者は、「どこのプレゼントかというほど立派な包装で、こんなにきれいなものをもらって良いのかと思った」と話しているほど。
正規雇用ができないB型の福祉作業所では、工賃が非常に安く月1万5000円程度の賃金しか出せない問題があります。ふるさと納税関連の作業を分担することで賃金の上昇を見込める点が評価できますが、もうひとつのさらに可能性を感じさせるポイントが、「作業者が社会参加できる点だ」と須永氏は解説しています。
「通常のB型作業所では、封筒の糊張りのような社会的にあまり意味がないとされる仕事をしており、作業者も自分自身がやっていることに意味がないと分かってやっているからやりがい、働きがいを感じることができない。しかし、ふるさと納税の返礼品の梱包は、がんばれば喜んでくれる人がいることが分かる。地域の役に立っていることも分かる。それがなによりも障害者の方にはうれしいこと」(須永氏)
パネルディスカッションでは、群馬、千葉で胡蝶蘭を栽培・販売する副作業所を運営するNPO法人アロンアロンの那部智史氏が、地域社会の活性化で障害者が果たす役割の大きさを指摘しており、これからの地方創生を考えるキーワードのひとつと言えそうです。また、障害者が梱包・包装することで生まれる新しい価値は、地方創生、そしてその先の新しい社会のカタチを感じさせます。
先述の返礼品を受け取った納税者は「障害者の方が包装してくれたこと、八幡平市がそういう取り組みをしていることに感動したし、また納税したいと感じた」と話しているように、障害者が作業したことが商品に新たな価値を加えています。これは、これまでよく言われた「付加価値」とは少し趣の異なるものではないでしょうか。
これまでの付加価値はマーケティング上の市場性で語られるものでした。希少性、コアコンピタンス、競合優位性など、相対価値による付加価値です。しかし、ここで付け加えられているのは「気持ち」であり「心」であって、それは相対的に評価できるものではないはずです。地方創生を加速するために、「付加価値をつけろ」「世界の市場を目指せ」と叱咤激励する声(主に国からの)に、結局のところ地方をグローバル経済の枠組みに組み込むのかと違和感を抱いている人も多い中で、このような絶対的価値・評価による経済流通に可能性を感じる人は多いようです。
▼「地方創生」に失敗しないために
※この日一番人気だった「八幡平牛のローストビーフの和風シャンピニオンソースがけ」
このイベントが行政に与えるインパクトも決して小さいものではないでしょう。イベントを担当した八幡平市役所企画財政課の関貴之氏は「外の目を入れることが重要なブレイクスルーポイントになる」と話しています。
「行政内部で議論し検討しているだけでは限界があることが分かってきている中で、ふるさと納税をテコに外部の人の意見と取り入れ、外部の検証の目にさらされることは、地方活性化のアクションの精度を高めることにも繋がるはず」(関氏)
つまり、八幡平市は、地方創生やふるさと納税の枠組みを使って、地方自治体の行政自体が変わっていこうとしているということです。地方自治体は、今なお構造改革が及ばない岩盤のようなものだと指摘する声もあります。地方創生にはまず、このように地方の行政がイノベイティブに変わろうとすることが必要なのかもしれません。
地方創生が始まって3年、どこか失速している感も否めず「地方創生は失敗した」という声もよく聞かれる昨今ですが、要は「地方創生」という枠組みを利用できるかどうかの問題になっていると言えるでしょう。ある識者が「地方創生で盛り上がっているのは、もともとがんばっている、意欲的な自治体だけ」と指摘するように、うまくいっている自治体は、それまでの活動に地方創生の交付金や冠を利用しているに過ぎません。
ここで断言できるのは、「『地方創生』をやれば地方が元気になる、はあり得ない」ということ。逆に「『地方創生』を利用した自治体だけが勝つことができる」とも言えるでしょう。諾々と地方創生関連の書類を整えているだけの自治体に先はない。その意味で、八幡平市は地方創生関連の制度を活用し、地方活性化にうまく弾みをつけています。そんなことが浮き彫りになった感謝祭でした。
筆者:土屋 季之
フリーライター、エディター。近年は自然環境、農林水産業、地域活性化関連、企業の社会的活動などの取材が多い。