愛知県犬山市と岐阜県可児郡を結ぶ路線である名古屋鉄道広見線。近年利用者が減っている影響もあり、一部区間における存廃が議論されるようになりました。その未来を考えてみます。
存続か、それともバス路線への転換か。
名古屋鉄道(名鉄)広見線は愛知県犬山市と岐阜県可児郡を結ぶ路線です。開業したのは1912年。非常に歴史の古い鉄道となります。
しかし地方ローカル線の例に漏れず、その経営は決して楽ではありません。昨今は新可児(しんかに)駅~御嵩(みたけ)駅間における利用者の減少が相次いでおり、廃線の検討まで行われるようになりました。その詳細を追ってみます。
新可児駅から御嵩駅間の存廃が本格的に取り沙汰されるようになってきたのは2021年ごろです。1990年代には年間200万人以上の利用者がいましたが、2000年代に入るとその利用者数は急激に減少。2023年の利用者数は78万人にまで落ち込むなど、厳しい経営状況になりました。
それを表すのが区間収支です。2023年の営業収入は約6800万円。それに対して発生している営業費用は約2億9000万円となっており、トータルで2億円を超える赤字が出ています。
原因に挙げられるのが沿線人口の減少です。沿線自治体の人口推移のうち、可児市の人口こそ2020年時点で微増傾向にありますが、八百津町では1980年以降、御嵩町では1995年以降ずっと減少が続いています。また3市町で少子化と高齢化が進んでいます。
こうした経緯もあり、2007年には名鉄から沿線市町に対して「名鉄単独での路線維持が困難」という申し出がありました。そのため、2010年に御嵩町が年7000万円、可児市が年3000万円の財政支援を名鉄に行うことが決定。2013年以降は、この協定を3年間ごとに繰り返し締結することで、運行を継続しています。
しかし、2021年には名鉄から沿線の市町に対して、その方式での路線維持も困難であると申し出があります。そのため2021年に終了する予定だった前出の協定を1年延長しつつ、運行継続のための協議会が国や県を交えて発足しました。
その後、2023年に広見線の運営に関する協定書と合意書が締結。2023年から2025年まではこれまでのように合計年間1億円の運営費支援を行いながら、2026年以降は利用状況を鑑みつつ存廃の判断を含む対応を協議することになりました。
自治体も大幅関与で存続へ でも将来は……
2025年8月には可児市・御嵩町・八百津町の沿線3市町と運行事業者である名鉄により、今後の協議について発表がありました。それによれば、2027年4月をめどに「みなし上下分離方式」へ移行、路線の存続を目指す模様です。
「みなし上下分離方式」とは、当該路線を走る電車(上)の運行部分と、その鉄道が走行する線路や電線といった維持管理部分(下)を分離し、自治体側が後者(下部分)を負担するという形式です。
公開資料には「4者においては、みなし上下分離方式とする場合の設備投資計画や上下の費用負担の考え方、運行期間等の詳細について検討・協議を進めていく。3市町ではそれを踏まえた沿線3市町の負担割合、活性化に向けた計画の内容等を検討していく」と記載されています。
これにより、とりあえず路線の継続が決まったものの、それでも新可児から御嵩間の鉄道運行はまだまだ厳しい状態が続くことになります。やはり2億円という赤字は存続に大きな不安を残す額と言わざるを得ません。
みなし上下分離で経営を続けるのも、相当の苦労になるはずです。そもそも人口減が続く地域なので、これまで支払ってきた年間数千万円の出費も相当な負担だったはずです。みなし上下分離となれば、それ以上の出費になる可能性もあります。
参考までに2023年度の営業費用を見ると、人件費の1億2000万円を除いたとしても1億7000万円の出費が発生しています。もちろん全額を自治体が負担するとは限りませんが、それでも今まで以上の赤字が発生する可能性もあります。
もし鉄道が廃止された場合は、バス路線への転換が次の案となります。しかし、100年以上続く路線だけに、なんとか営業を続けてほしいところではあります。
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