<いわさき白露シニアゴルフトーナメント 最終日◇23日◇いぶすきゴルフクラブ(鹿児島県)◇7074ヤード・パー72>
国内シニアツアーの今季最終戦「いぶすき白露シニア」は、トータル12アンダーで並んだ手嶋多一とタマヌーン・スリロット(タイ)のプレーオフとなった。1ホール目で手嶋がバーディを奪い、パーのスリロット(タイ)を退け、2021年の「日本シニアオープン」以来、4年ぶり3勝目を挙げた。そこで、『日本一練習しないプロ』といわれる手嶋の独特なゴルフ理論を紹介する。
■ホテルに6番アイアンとパターを持ち帰る
レギュラーツアーを主戦場にしていた頃から、トーナメント会場のレンジでは、ほとんど球を打たないため、練習日に手嶋を見つけるのは難しい。その代わり、ホテルの部屋に6番アイアンとパターを持って帰る。「打たない。構えるだけ」というのが手嶋独自の練習法なのだ。
「鏡の前でアドレスとボール位置、手元の位置を毎日チェックしています。テレビCMの合間とかね(笑)」。アドレスがズレているのに、いくら球を打っても「下手を固めるだけ」というのだ。そのわずかなズレがボールの着弾地点では「何十ヤード」の大きな幅に変わると考えている。だからまずはアドレス。「スイングがどうこうではない」。今週も含めて最近では試合の朝もレンジには行かない。
また、試合がないときは、たまに街の練習場に行くこともある。「マットとか決められた方向だけでスイングを作っても意味がない」。練習場には四角いマットが敷いてあるため、無意識にマット通りに構えて打つことが多い。コースにはマットがないため、景色が変わったときに対応できないと考えている。
「右に打ったり、左に打ったり、フックを打ったり、スライスを打ったり。とにかくマット通りに打たないようにしています。球って丸いんだから真っすぐ行かないんです(笑)。どっちかに曲げた方が楽。僕はいかに練習せずに上手くなるっていうのを追求しているから。最低やね」と笑い飛ばす。
■スタート前はフックラインしか打たない
試合の朝のルーティンも独特だ。レンジには行かず練習グリーンだけ。「朝はフックラインしか練習しません。持ち球のドローで返ってくるイメージで打ちたい。スタート前のパターは自分のショットをイメージしながら打っています。特にここの1番ホールは右がOBだから、スタート前にフック回転のパターをするわけです」。それで今大会の朝イチショットはいきなり打って「3日間ともフェアウェイに行きました」と胸を張る。
また、レギュラー時代はブレード型のパターを使うイメージが強かったが、今はマレット型の『スパイダー ツアーX』を使用している。「シニアになってからブレード型の薄い感じだとテークバックで真っすぐ引けなくなった。マレットの方がショットと同じで右に押していける」。
パッティングもドローのイメージだから、体を開いて右からボールを見るように構え、ボールを右に打ち出す。そのため、上体は少し右に傾いているように見える。「真っすぐは構えてない。その方がラインを見やすいんです。ゴミ箱にボールを投げるときって真っすぐ構えず胸が開いている(目標に正対する)でしょ? それと同じでちょっと(体が)開いている方が距離感も出るしタッチも出る」。
■ドライバーはフェード、アイアンはドローを打つ
昔から手嶋の持ち球はドロー。だが最近は「ドライバーはフェード、アイアンはドロー。それははっきり分けています。ドライバーはフェアウェイに置く。アイアンはピンを刺したいから自分の持ち球で打つ」と話す。ドライバーはフェードといっても、右プッシュ気味に打ち出してドローさせないイメージに近い。それが手嶋なりの大型ヘッドを打ちこなすコツなのだ。
「昔の小さいヘッドは右に出してドローを打てるけど、今の大きなヘッドでドローを打とうとすると縦にドロップしてキャリーが出ないんです。少し右にスッポ抜けるか、フェードの方が飛ぶんですよ」。最新ドライバーはボールの進化も相まって低スピン化が進み、もともとスピン量の少ないドローだと、浮力が足りずにドロップしてしまう。だから、右プッシュ気味にフェードを打って飛距離を稼いでいる。
■ドローもフェードも体のラインより右に出す
体のラインに対して、右に打ち出してドロー、左に打ち出してフェードという弾道もあるが、手嶋はドローもフェードも右に打ち出す。「ドライバーは右に出してフェードなので、かなり左を向きます、リー・トレビノと呼んでください(笑)。僕はドローヒッターなので、定義として体のラインよりも左に飛ぶボールは絶対に嫌なんです」。
手嶋は「ドライバーは270ヤード」と飛ぶ方ではないが、今大会では最終日最終組で回ったともに飛ばし屋の宮本勝昌とプラヤド・マークセン(タイ)をアウトドライブするシーンもあった。
ではドライバーのフェードとアイアンのドローはどう打ち分けているのか? 「アイアンはダウンブローにフェースを開いて当てる。バンスが地面に当たって閉じるぶん、ドローがかかります。ドライバーはティアップしているからそのまま当てる。フェースが返るとテンプラしちゃうからね」。
さらに、アイアンはドローしか打たないため、右にピンが切ってあるときはピンを狙わない。「ピンに寄せるにはピンより右に出さないといけないけど、それだと危険。右がピンのときはピンを向いて5ヤードくらい左へ落とすんです。ピンが左のときはチャンス。真っすぐ打ってピンに寄せていけますからね」と、コースマネジメントを徹底している。大会2日目には8バーディを奪って大会レコード1打更新する「64」をマークした。
■日常生活は左右対象を心がける
アイアンの球筋はドロー一辺倒だが、日常生活では左右対称になるように心がけている。足を組むときに右足を上にしたら、同じぶんだけ必ず左足を上にして座る。右手で荷物を持ったら、必ず左手でも持つ。右向きで寝た次は左向きで寝る。「バランスを取らないといけない」。明るく大雑把な性格に見えて、実はかなり繊細に生活している。それが“The”日本一練習しないプロ・手嶋多一なのだ。
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