耳の不自由なアスリートの国際大会「東京2025デフリンピック(デフ五輪)」が15日開幕する。陸上のトラック競技ではピストルの号砲も使用されるが、選手は赤・黄・緑に光る装置「スタートランプ」を合図にダッシュする。装置開発に携わったろう学校教諭は「耳の聞こえない人のハンディキャップに気付いて」と話す。
短距離走で使われるランプは手のひらほどのサイズで、選手がスタート姿勢を取った際、顔の下にくるように各レーンにセットされる。「オン・ユア・マークス(位置について)」で赤、「セット(用意)」で黄、号砲で緑に変わり、健常者と同じようにスタートできるよう考えられた。
きっかけになったのは、東京都立中央ろう学校教諭の竹見昌久さん(50)が約15年前、都内の別のろう学校で陸上部の顧問をしていた時の出来事だ。教え子の女子生徒が健常者も出る大会で200メートル走の予選に臨んだが、号砲が聞こえず出遅れ、「聞こえなかったらどんなに努力しても勝てるわけない」と泣きながら訴えた。
竹見さんによると、かつて、耳の不自由なアスリートはスタート時、顔を上げて隣の選手やスターターの動きを見て走りだしていた。竹見さんも「スターターをしっかり見て」と指導してきたが、女子生徒の涙に反省した。
当時、海外製のランプはあったが、大き過ぎて邪魔になり、実用的ではなかった。使いやすいランプはないのか―。悩んだ竹見さんが大学時代の恩師に相談すると、スポーツ機器を製造・販売するニシ・スポーツ(東京都中央区)を紹介された。
竹見さんの考えに賛同した同社の担当者は約3カ月後、試作品を完成させる。改良が進む中、竹見さんは国内外の大会で使用してもらえるよう、主催者側に直談判するなど、普及に奔走。19年に「光刺激スタート発信装置」として製品化されると広く使われ、前回(22年)のブラジル大会でも採用された。
「ホイッスルや審判の声など、スポーツでは『音』をたくさん使うことに気付いてほしい」と竹見さん。「耳の聞こえない人は多くのハンディキャップを抱えているが、ランプで平等に競技に挑める。大会を通じ、聴覚障害への理解が進めば」と期待を込める。
〔写真説明〕「スタートランプ」の開発に携わった竹見昌久さん=4日、東京都品川区
〔写真説明〕東京2025デフリンピックの陸上トラック競技で使用される「スタートランプ」(ニシ・スポーツ提供)

