「全電車を10年以内に“VVVF化”せよ」それは現実的なのか? 大手私鉄の達成率を比較したら「さすがに無理じゃね…?」

国土交通省から、2035年までに主要鉄道事業者の全車両をVVVF化するという素案が示されました。そこで大手私鉄16社の「VVVF化率」を調査。結果からは、各社まちまちながらも東西で異なる傾向となりました。

VVVF化は各社まちまち

 原則として2035年までに主要鉄道事業者の全車両をVVVF化するという素案が、国土交通省の官民研究会で示されました。高効率車両・機器に置き換えて省エネルギー化を図るというものです。

 国交省は、環境負荷軽減に向けた主な鉄道の取り組みとして「鉄道分野のGX(グリーントランスフォーメーション)に関する官民研究会」を開催しています。鉄道分野のGXに関する目標や戦略を検討するもので、2025年9月8日に第4回研究会が開催されました。このときに示された素案が、「全車両VVVF化」です。

 VVVF(可変電圧可変周波数)装置は、電圧や周波数を任意に変換できる装置です。鉄道車両には1980年代後半から導入が始まり、1990年代後半以降の新造車両はVVVF搭載が主流になっています。

 電気を効率良く使うため、省エネルギーに長けていることが特徴です。減速中のエネルギーを電気にして回収する回生ブレーキと組み合わせると、省エネ化がまったく行われていない車両に比べて概ね6割程度の電力で走行できるとされています。

 今回、全車両のVVVF化が示されましたが、大手私鉄16社で2024年3月末時点だと、VVVF化された車両は78%です(日本民営鉄道協会『大手民鉄の素顔』による)。つまり2035年までに残り2割程度をVVVF化すれば良いわけで、10年あれば実現可能のように見えます。

 ところが、大手私鉄16社を個別に見ていくと、VVVF化の割合に大きな差があり、なかには2035年全車VVVF化が困難と予想される事業者もあります。

すでに6社が「100%」達成

 大手私鉄16社でVVVF化の割合を単純に計算したところ、VVVF化率100%をすでに達成している事業者が6社ありましたが、いずれも関東でした。

 なお、計算にあたっては営業運転に用いる車両を対象とし、機関車や検測車などの事業用車両は除いています。また、東京メトロには引退した車両にVVVFではない車両がありますが、これも除いています。このほか、東武の「SL大樹」の車両や、ケーブルカーの車両も除いています。なお、電車にはモーターのない車両もありますが、VVVF車両と常時連結している状態であれば、VVVF車両の一部として計算しています。

 関東では、東武・西武・京成の3社がVVVF化を完了していない状態です、このうち、西武は2030年度までのVVVF化100%達成を目指して、「サステナ車両」と呼ぶ他社から譲受したVVVFインバータの車両を導入するほか、新造車両への置き換えを進めています。京成も新型3200形への置き換えが進行中です。

 関東でVVVF化率が最も低いのが東武で、6割程度に留まっています。同社は、新型の80000系を野田線(東武アーバンパークライン)に投入して、2028年度までに同線はVVVF化率が100%となる見込みです。

 また、東上線には2026年から新型90000系を投入するほか、大師線での自動運転の検証に関連して新形車両を導入する予定です。さらに、同社の長期経営ビジョンでは新型特急車両の開発も予定しています。これらの施策によってVVVF化率が上がることは間違いないでしょう。

 中京地区は、名鉄のVVVF化率が6割台です。近年は新車を毎年投入して車両の置き換えを進めており、2026年度には新型500系を豊田線などに投入する予定で、VVVF化率が上昇する見込みです。

VVVF化率は「東高西低」

 関西は、新車の導入を抑制していた時期が長く、各事業者のVVVF率は5割から6割程度に留まっています。関西の大手5社のうち、VVVF化率が最も高いのは南海の68.1%、最も低いのは京阪の49%です。しかし、両社ともVVVF化されていない車両でも回生ブレーキを備え、省エネルギー効果があります。回生ブレーキ付車両の導入率は100%です。

 阪神は2027年春から新型3000系を導入。京阪は13000系を増備する予定で、VVVF化率が上昇する見込みです。

 南海は2027年度末から特急「サザン」を新型車両に更新するほか、一般車両も2027年度までに40両導入することを同社の中期経営計画で発表しています。

 近鉄も、同社の中期経営計画で特急車両「ビスタカー」の置き換えを計画しているほか、2025年度から2028年度にかけて一般車両を150両投入する予定です。

 阪急も近年は新型車両の導入を進めているものの、具体的な計画は公表していません。しかし、2025年3月に公表された阪急阪神ホールディングスの長期経営構想によると、2050年カーボンニュートラルに向けた取り組み例として鉄道事業におけるカーボンニュートラル運行が取り上げられています。これに関連して、新型車両の導入によるVVVF化の推進が見込まれます。

 このほか、九州の西鉄では1970年代後半に導入した車両(5000形)が多数を占めているため、VVVF化率は6割を切っています。

 先の国土交通省の素案では、2035年までに全車両のVVVF化を完了とありますが、これに加えて初期のVVVF車両(GTO方式)の置き換えも盛り込まれています。

 これを踏まえて、初期のGTOを用いたVVVF車両を除いてVVVF化率を算出したところ、2025年4月の時点で、VVVF化率が100%の事業者は小田急・東京メトロ・相鉄の3社でした。この3社は過去にGTO方式のVVVF車両も存在していましたが、車両の置き換えやVVVFの換装によって淘汰されています。西武と西鉄もGTO方式のVVVF車両はゼロです。

 しかし一方で、GTO方式を除いたVVVF化車両だけに絞ると、東武が5割強、京阪が4割弱、近鉄が2割台にとどまっています。車両の置き換えとVVVFの換装を組み合わせても、2035年までのVVVF化完了は厳しいのかもしれません。

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