
【イスタンブール時事】イランへの国連制裁が復活し、イランは国際原子力機関(IAEA)との協力停止などの対抗措置を講じる方針だ。2015年に締結されたイラン核合意以前の状態に戻り、イランの核開発を制限する手だては事実上失われた。核施設の査察や監視は不可能となる公算が大きく、核開発の実態把握は一段と難しくなる。
▽欧州側と対立
イラン外務省は28日、制裁復活後の声明で「全ての国はこの違法な状況を認めるべきでない」と主張。「国益と国民の権利を損なう動きには適切かつ断固たる対応を取る」と警告した。
英仏独が8月下旬に制裁復活手続きを開始し、制裁停止を続ける決議案が国連安保理で否決された後を含めた約1カ月間、イランと欧州は協議を重ねた。イランは9月上旬にはIAEAと協力継続に向けた新たな枠組みで合意。一定の柔軟姿勢をアピールし、制裁再発動の回避を模索した。
ただ、IAEAとの合意では核査察再開への明確な道筋は示されず、英仏独が求めた対米協議も実現しなかった。欧州側はイランの取り組みを不十分と判断。一方、イランは「われわれの建設的提案は全て無視された。欧米の目的は対話ではなく対立だ」(アラグチ外相)と非難した。
第1次トランプ米政権が18年に核合意から離脱し、イラン産原油禁輸などの制裁で締め付けを図ると、イランはウランの貯蔵量や濃縮度の上限突破で核合意逸脱を進めた。欧米の外交圧力を「脅迫」と見なす以上、今回の国連制裁の復活でも、イランが威信を懸けた核開発継続を放棄する可能性はほぼない。
▽国内で抑止力強化論
イランでは国際的孤立も辞さない保守強硬派を中心に、03年に核拡散防止条約(NPT)脱退を表明して核・ミサイル開発を加速させた北朝鮮と同じく、強硬手段を通じた「抑止力強化」を求める声も強い。改革派のペゼシュキアン大統領は「NPT脱退の意思はない」と強調するが、国内で賛否両論があることは認めた。
今年6月のイスラエルと米国による核施設攻撃で、イランは深刻な被害を受けた。イラン情勢に詳しいシンクタンク「国際危機グループ」のアリ・バエズ氏は「イランが査察官不在で核計画を再開させれば、イスラエルや米国が再攻撃する確率が高まる」と指摘する。
再攻撃を招けば、イランは壊滅的な打撃と共に「体制転覆」のリスクに直面しかねない。最高指導者ハメネイ師自身のファトワ(宗教令)に準じて「(核兵器に不可欠な)ウラン濃縮技術を持ちつつも、核武装の意図はない」としてきた政策が今後、体制存続の危機を前に揺らぐ恐れもある。
〔写真説明〕イラン中部ナタンズのウラン濃縮施設=イラン原子力庁が2019年11月に公表(AFP時事)