
千葉県銚子市の「銚子電鉄」が路線名の愛称を「犬吠崖っぷちライン」と名付け、反響を呼んでいる。厳しい経営を逆手に取った命名で、自虐路線をアピールしたイベントも次々と企画。独自の広報戦略で、観光客呼び込みと地域振興を図っている。
銚電の路線は銚子―外川(全長約6.4キロ)の1本で慢性的な赤字に苦しむ。経営危機を何度も経験し、一時黒字経営になったが、2025年3月期決算は物価高の影響で4年ぶりの赤字に転落した。
名物の菓子「ぬれ煎餅」などによる副業が収入の8割を占め、公的支援も受ける。車両や線路の修繕費に悩むこともあるといい、竹本勝紀社長は「電車なのに自転車操業」と自嘲する。
「崖っぷちライン」は、市内にある崖の景勝地と厳しい経営状況を重ねて命名された。今年4月の発表以降、銚子駅に到着するJRの車内アナウンスや乗り換え案内で使われるなど「公認」となった。竹本社長は「苦しい時こそ笑いが重要。真面目にやってもお客さんは来ない」と語る。
7月には、経営が厳しい中小企業など7社を集めた会合「G(崖っぷち)7サミット」を開催。地元のビール会社や県外の企業などが参加し、厳しい経営状況をばねに連携を強め、コラボ商品販売や共同プロモーションを進める方針を決めた。継続的に開く予定で、竹本社長は「目指せG20だ」と息巻く。
奇抜な広報は、竹本社長が抱く「ローカル線の使命は地域の広告塔」との信念からだ。しゃれや自虐ネタで話題をつくって観光客を呼び込み、主力商品の菓子を宣伝する。「(経営が)まずい棒」といった菓子の販売や、地元と連携した観光列車「鯛パニック号」開催などアイデアは尽きない。
竹本社長は地域と鉄道は共存関係にあるとし、「存続を目的として地域への恩返しを考えなければいけない」と強調。「自虐ネタからなかなか足を洗えない」と苦笑しつつも、「日本一のエンタメ鉄道を目指す」と意気込んでいる。
〔写真説明〕銚子電鉄の竹本勝紀社長=8月5日、千葉県銚子市