
第2次世界大戦の終了後、旧ソ連によってシベリアなどに抑留された旧日本兵らは収容所で過酷な生活を送った。極寒の中での強制労働といった悲惨な歴史を若い世代に伝えるため、多摩大(東京都多摩市)講師の浜大貴さん(25)は学生時代、収容所をバーチャルリアリティー(VR=仮想現実)技術で再現した。浜さんは「歴史を風化させないための一助にしたい」と話す。
大学でデジタル技術を学んでいた浜さんは2021年11月、新型コロナ禍を受けオンライン上で学園祭を行う取り組みに参加。同大の多摩キャンパスの建物をインターネット上で再現したが、それを見た当時同大の准教授で、抑留研究者の小林昭菜さん(現関東学院大准教授)から「教材として収容所も再現してほしい」と依頼された。
小林さんは、見たことも聞いたこともない何十年前の歴史を学生たちに教えることに限界を感じていたといい、「バーチャル空間ならシベリア抑留を『追体験』できるのではと思った」と振り返る。
浜さんは小林さんから借りた資料などに加え、収容所の模型がある平和祈念展示資料館(東京都新宿区)にも足を運び、約120枚の写真を撮って宿舎の窓の位置や木材の並び具合などを入念に確認。大学の友人らと約1カ月をかけて、バーチャル収容所を作り上げた。
宿舎のほか、食堂や監視塔などの建物も再現し、VR対応のゴーグルを着用することで、収容所内にいるかのような体験ができるという。完成したバーチャル収容所は同館での子ども向け体験イベントや、舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市)の学生語り部の研修会などで活用された。
浜さんは「抑留は悲惨な歴史で許されないことだ」とした上で、「VR技術で抑留者が体験した収容所の雰囲気を感じることで、この歴史を忘れないようにしてもらいたい」と話している。
〔写真説明〕インタビュー取材に応じた多摩大講師の浜大貴さん。奥にあるのは、バーチャル収容所を体験するための仮想現実(VR)対応のゴーグルとパソコン=4月18日、東京都多摩市