
ウクライナが将来侵略されないようにする「安全の保証」を巡り、ロシアが譲歩したかのような見方が欧米メディアで独り歩きしている。トランプ米大統領は15日の会談でプーチン大統領から同意を得たと説明。しかし、ロシアにとり、隣国ウクライナに北大西洋条約機構(NATO)加盟国の部隊が展開するような事態はそもそも容認し難く、立場が変わったのか疑問符が付く。
ウクライナのゼレンスキー大統領との協議が実現しても、ロシアに好都合な条件を次々と突き付け、溝が露呈する可能性がありそうだ。
「ウクライナの安全も確保されなければならないと話したトランプ氏に私は同意する。われわれはこの問題に取り組む用意がある」。プーチン氏は15日の米アラスカ州での共同記者会見でこう語った。ただ同時に、NATOを念頭に「根本原因の排除」も改めて訴えた。
プーチン氏が欧米による安全の保証を受け入れたと見なせる発言はほとんどない。会談したトランプ氏が盛んに情報発信しているが、ロシア側は慎重で、米側に受け入れの意思を具体的に伝えたかは不明だ。
NATOの勢力圏を広げないことは、2022年に制裁と孤立を覚悟で全面侵攻に踏み切ったプーチン外交の「一丁目一番地」。ウクライナの「非武装化」「中立化」は今も最優先事項だ。14年の南部クリミア半島併合も東部ドンバス地方への軍事介入も、NATOの東方拡大を食い止めるための一手だった。
欧州は停戦後に再侵攻を防ぐ平和維持部隊の展開を計画している。たとえNATO加盟を断念させても、ウクライナに欧米部隊が関与を深めれば、実質的に類似したシナリオとなり、逆にロシアの安全を害する。領土を割譲させても引き換えにできないとみられる。
ロシア外務省のザハロワ情報局長は18日、「NATO加盟国が参加したウクライナ派兵は断固拒否する。紛争を制御不能に陥らせ、予測不可能な結果をもたらす」と強くけん制した。
〔写真説明〕ロシアのプーチン大統領=19日、モスクワ(EPA時事)