
【カイロ時事】イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスの壊滅を目指す掃討作戦を続ける中、住民の女性が家族や当局の保護を失い、性的搾取の脅威にさらされている。深刻な食料不足や生活の困窮に付け込む事例が相次いで報告され、被害が広がっていると指摘される。
◇女性誘う避難所責任者
「私を満足させたら、あなたを喜ばせてあげよう。今からビーチで会おう」―。ガザ南部マワシで避難生活を送るスアドさん(37)の携帯電話が鳴ったのは5月の真夜中のこと。言葉に耳を疑った。声の主は避難所の責任者の男性。スアドさんは日中、この男性に食料配給に関する頼み事をしたばかりだった。
スアドさんは、季節農家の夫と娘1人、息子2人とガザ北部で暮らしていたが、夫は衝突が始まった翌月の2023年11月にイスラエル軍の空爆で死亡した。両親の看病も必要な中、スアドさん一家は瞬く間に窮地に陥る。イスラエル軍の退避勧告などで避難先を転々とし「支援に完全に依存」する生活。住民が殺到する配給所の混乱の中で負傷し、うまく歩くこともできなくなった。
男性は100シェケル(約4000円)でスアドさんを誘い出そうとしたが、断った。「禁忌を冒してまで受けなければならない支援は、必要ない」とスアドさんは憤る。
支援と引き換えに女性が性的な行為を求められることは珍しくなく、スアドさんは16歳になる娘のことを心配している。「私が死んだらどうなるのか」。男に手を掛けられるくらいなら「一緒に死にたい」と語った。
◇ハマス弱体化で「無秩序」に
ガザからエジプトに避難したパレスチナ人ジャーナリスト、アフメド・サイードさん(42)の元には、ガザから性的搾取の被害を訴える連絡が頻繁に届く。サイードさんによると、食料の配給を担う現地の慈善団体が絡む事例が相次いでいる。
子供に食事を与えるため男の要求を受け入れ、後から自身の行いを恥じ入り「尊厳の喪失」に苦しむ女性も多いという。サイードさんが被害を訴えても、団体側は「そんな事実はない」と主張するばかりだ。
主な女性保護団体は戦禍で活動を停止している。以前はハマスが主導する「ガザ政府」が治安維持を担い最低限の秩序は保たれていたが、イスラエルの攻撃でハマスが弱体化し、それも失われた。ハマスと対立するパレスチナ自治政府は無策。サイードさんは「ハマスに正義があったとは言えない。ただ、無秩序となったガザで女性を守る者が誰もいなくなった」と嘆いた。
〔写真説明〕パレスチナ自治区ガザの女性ら=7月20日(AFP時事)
〔写真説明〕エジプトの首都カイロで取材に応じるパレスチナ自治区ガザ出身のジャーナリスト、アフメド・サイードさん=7月30日