
石破茂首相は6日、80回目の「原爆の日」を迎えた広島で「核戦争のない世界」を訴え、米国の核抑止を重視する立場を強調した。日本政府は唯一の戦争被爆国として核軍縮・不拡散の機運を醸成しようと努力している。ただ、安全保障環境が厳しさを増す中、核抑止への依存を強める「矛盾」を抱えたままだ。
「核戦争のない世界、そして核兵器のない世界の実現に向け、全力で取り組む」。首相は広島市で行われた平和記念式典でこう表明した。歴代首相には見られなかった「核戦争のない世界」との独自の表現を用い、核抑止で「平和」を守る意義をにじませた。
日本周辺では中国が核戦力を増強させ、北朝鮮も核・ミサイル開発を加速。ウクライナ侵攻を続けるロシアは核使用を示唆し、北朝鮮に軍事技術を供与しているとされる。こうした国際社会の現実を踏まえ、首相は核抑止による「力の均衡」こそが地域の平和と安定をもたらすという見解を堅持する。政府関係者は「ロ中朝の3方面と向かい合わなければならないのは日本だけだ」と切迫感を口にした。
そもそも首相の持論は、米国が核兵器を使用する際の意思決定過程を日本も共有するべきだという「核共有」だ。式典後の記者会見でも「核抑止力を含む米国の拡大抑止の信頼性を強化していく方策について、不断に検討が必要だ」と述べた。
実際、日米は昨年12月、拡大抑止に関するガイドライン(指針)を初めて策定するなど、核抑止の実効性強化を図る。「米国第一主義」を掲げるトランプ米政権の下、日本を含む同盟国に「核の傘」への不信がくすぶっていることも影響している。日本外務省幹部は「政府には現実に対処する責任がある」と指摘した。
ただ、自らを「核の傘」の中に置きつつ「核兵器のない世界」の理想を訴えることには「欺瞞(ぎまん)」との批判がつきまとう。首相と広島市で面会した被爆者代表は、核兵器の開発・保有を違法とする核兵器禁止条約への日本の参加を重ねて要請。松井一実市長も平和宣言で「ぜひとも来年開催される条約の第1回再検討会議にオブザーバー参加していただきたい」と求めた。
これに対し、首相は会見で「核兵器国と非保有国が広く参加する『核兵器のない世界』に向けた唯一の枠組みは核拡散防止条約(NPT)体制だ」と強調し、核禁条約と一線を画す姿勢を重ねて示した。
〔写真説明〕平和記念式典であいさつする石破茂首相=6日、広島市中区の平和記念公園
〔写真説明〕平和記念式典で献花する石破茂首相=6日、広島市中区の平和記念公園