戦争遺留品、ネット競売続々=軍刀・防空頭巾…散逸の一途―専門家「国立施設で保護を」

 終戦から80年を迎える中、ネットオークションでは軍刀などの戦争遺留品が大量に出品され、散逸に歯止めがかからない。ネット上の売買では遺留品の出所が分かりにくく、遺族に返還できないケースも多い。専門家は「国が専用の施設を設立し、遺留品を保護するべきだ」と訴えている。
 米国の大手オークションサイト「イーベイ」では、旧日本軍の軍刀や防空頭巾といった遺留品が売買されている。「第2次世界大戦 日本 オリジナル」と日本語で検索すると、2万件以上がヒットする。軍刀は260ドル(約3万8000円)、ガスマスクは600ドル(約8万9000円)の値が付いている。
 戦争遺留品のネット販売を巡っては、厚生労働省が約10年前、遺族や民間団体の要請を受けて出品の自粛を呼び掛けた。オークションサイトの運営会社にも自主規制を求めたが、あるサイトで「旧日本軍」と検索すると元特攻隊員の水筒や千人針など3500件以上がヒットするなど事実上野放しのようだ。
 ネット上では収集家による売買が繰り返され、元の持ち主が分からない遺留品が増えている。遺留品を遺族に返還する活動を行う米国のNPO法人「キセキ遺留品返還プロジェクト」の代表ジャガード千津子さんは「遺留品がいつ誰によって、どこから持ち帰られたかの情報を得ることが非常に難しい」と顔をしかめる。
 ジャガードさんによると、出品される遺留品の数は数年前とほぼ同じ一方、遺族に返還できる数は激減している。「今はネットオークション上の95%ほどが出所不明の遺留品だ」と話す。
 駒沢大の加藤聖文教授(日本近現代史)は、戦争遺留品の散逸に強い危機感を示す。加藤教授によると、遺族らが民間の資料館に遺留品を寄付しようとしても、収納スペースが足りないなどの理由で断られるケースが多いという。受け入れられなかった遺留品は捨てられたり、ネットオークションに出品されたりしているとみられる。
 加藤教授は「戦争関連施設は歴史認識の違いから設立が難しい場合もある」とした上で「終戦から間もなく80年となり、戦争の是非を問う局面ではなくなった」と指摘。「あの戦争は何だったのか。遺留品を通じて皆で考える施設を国が造るべきだ」と話している。 
〔写真説明〕「イーベイ」のオークションサイトに出品された軍刀やガスマスクなどの戦争遺留品(同サイトから)

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