〔評伝〕大量消費社会を痛烈批判=「本当の幸せ」実践―ウルグアイのムヒカ元大統領

 ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領は、公の場でもネクタイを着けない親しみやすい雰囲気で世界中から人気を集めたが、若い頃にキューバ革命の影響を受けてゲリラ活動に身を投じ、長年投獄された過去を持つ。大量消費社会が人類の幸福を奪っていると警鐘を鳴らし、自らも質素な生活を生涯貫いて自由を追求。「本当の幸せ」を実践してみせた。
 1960年代半ば、貧困や格差の解消を目指して極左都市ゲリラ組織ツパマロスに所属し、何度も銃撃を受けた。73年からの軍政期には独房に10年以上投獄され、拷問にも耐え抜いた。夫人のルシア・トポランスキー元副大統領はゲリラ時代からの同志で、2005年に結婚した。
 大統領だった12年、ブラジルで開かれた「国連持続可能な開発会議」での演説で「私たちは『使い捨て文明』を支える悪循環の中にいる」と述べ、物欲を満たすことを優先する大量消費社会を痛烈に批判した。人類の本当の幸せとは何なのか、根本的な疑問を投げ掛けた演説は瞬く間に世界中のメディアが報道。各国で関連書籍が出版され、映画にもなった。
 14年には、長年愛用する独フォルクスワーゲン(VW)の小型車「ビートル」を100万ドル(約1億4700万円)で譲ってほしいと申し出があったが、「友人らが資金を出して買ってくれた」として拒否。国のトップとなっても自身の哲学を曲げないエピソードとして今でも語り草となっている。
 大統領退任後の16年に夫人と共に初来日。満員の記者会見場で「質素な生活をすれば車や家を買い替えるのに時間を費やさずに済み、やりたいことをする時間が増える。それが自由というものだ」と、諭すように語った。「富を求めるあまり、絶望に駆られて生きてほしくない。人間の幸せは物質的なところに存在しない」。家族や友人と過ごす時間を大切にするよう呼び掛ける声は、多くの人の心を揺さぶった。(サンパウロ時事)。 
〔写真説明〕夫人と共に来日し、記者会見に出席したウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領(左)=2016年4月、東京都千代田区
〔写真説明〕ブラジルで開かれた「国連持続可能な開発会議」で演説するウルグアイのムヒカ元大統領=2012年6月、リオデジャネイロ(EPA時事)

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