
イギリス海軍では、戦争や紛争で戦果を挙げ帰港した際に、海賊旗を掲揚する習慣があります。一体どのような理由で掲げるようになったのでしょうか。
「潜水艦は卑怯だ」と海軍の幹部が発言
マンガ『ONE PIECE(ワンピース)』は海賊を題材とした作品ということで、主人公たち麦わら海賊団を含め、頻繁に様々なデザインの海賊旗「ジョリーロジャー」が出てきますが、実は現実でもこのジョリーロジャーを掲げている組織があります。イギリス海軍です。
イギリス海軍が海賊旗を掲揚するようになったのは、第一世界大戦中に運用された潜水艦E9が始まりといわれています。以降、同艦だけではなく、多くの潜水艦が海賊旗を掲げるようになり、イギリス海軍の伝統となりました。
そもそもなぜイギリス潜水艦は海賊旗を掲げていたのでしょうか。別にイギリス海軍が過去に民間船に私掠免許与えて、敵対国の船への海賊行為を奨励していたことが理由ではなく、そのきっかけは今から100年以上前、1901年にイギリス海軍が最初の潜水艦を進水させた頃にさかのぼります。
当時の潜水艦はまだ魚雷発射機能がなく、目標艦艇の下に潜って曳航式の機雷をぶつけるか、艦艇の侵入経路に機雷を敷設するといった行動が主任務で、水上艦艇に見つかればひとたまりもないため、戦場となりそうな海域ではバレないように潜りながら任務を行っていました。
こうして隠れるて相手を攻撃する戦法が気に入らなかった軍人も当時はいました。後に第一次大戦中にイギリス海軍の武官の最高位である第一海軍卿となるアーサー・ウィルソン中将(当時)は「卑怯で不公正で全くもってイギリス人らしくない」と評し、「潜水艦の乗組員は捕まった場合、海賊として絞首刑に処すべき」とまで言ったといわれています。
第一次大戦中に抗議の意味で掲揚
時代が進み、第一次世界大戦の開戦から3か月後の1914年9月にドイツの潜水艦であるUボートが投入されて以降、イギリス軍は戦争が終わるまで潜水艦に悩まされますが、イギリス海軍も魚雷が発射可能なE級潜水艦を投入し、多くのドイツ艦船を撃沈しました。そのなかでも、1915年10月に潜水艦E8、E9の雷撃によりドイツ海軍の装甲巡洋艦「プリンツ・アーダルベルト」を撃沈したことは、バルト海に展開するドイツ海軍に大きな打撃を与えると共に、イギリス海軍に潜水艦の有効性を知らしめる衝撃的な事件といえるものでいた。
そこで、E9の艦長だったマックス・ホートン中佐(当時)は凱旋帰港する際、イギリス海軍の潜水艦部隊が、上司から海賊と言われていることを思い出し、あえて海賊旗を掲げて港に凱旋することで、抗議の意を示したという訳です。
ほどなくほかの潜水艦も真似て海賊旗を掲げ戦果を誇示するように。海軍はこの習慣を決して認めていませんでしたが、強引に止めさせるわけにもいかず、そのまま放置されることになりました。その後も海軍が黙認する形で習慣として続いていきました。
その後の第二次世界大戦でも、この習慣は継続して行われ、大戦中にはオーストラリア海軍の潜水艦も時折、海賊旗をかかげたようです。
第二次大戦後は、1982年のフォークランド紛争でチャーチル級原子力潜水艦の「コンカラー」がアルゼンチン海軍の軽巡洋艦「ヘネラル・ベルグラノ」を撃沈した後に、海賊旗を掲げて帰港したそうです。
2000年代に入ってからは、トラファルガー級原子力潜水艦「タービュレント」が2003年にイラクへ向け巡航ミサイル攻撃を行った際に海賊旗を掲げて入港したそうです。以降はイギリス海軍の潜水艦が攻撃に参加しるような戦闘は起きていませんが、まだこの伝統は続いてると予想されます。