戦車の砲塔かよ!? 鼻先の機関銃が“グルグル”回る戦闘機なぜ生まれた? でも使えなかったワケ

ミサイルがまだ実用化される前、米海軍では高速化し続ける戦闘機において、ありとあらゆる方向から目標を攻撃できるよう、機首に回転銃座を備えた戦闘機を試作しました。理想的といえそうですが、なぜ実用化されなかったのでしょうか。

機銃の向きが自由に動かせたら便利かも

 第2次世界大戦中に実用化の域に達したジェット戦闘機ですが、本格的に世界中で使われるようになったのは戦後の1950年代からです。この時代のジェット戦闘機は「第1世代」と呼ばれ、現在主流の第4世代機、もしくは最新の第5世代機につながる様々な技術が試行錯誤された時期でもあります。

 そうした、いわゆる第1世代ジェット戦闘機のひとつに、アメリカ海軍のグラマンF9F「パンサー」があります。同機は空母で運用可能なジェット艦上機の創成期に分類される機体で、過渡期ゆえに前期型では直線翼だったのを、後期型では後退翼へと改設計し、性能向上を図っています(これに伴い愛称もクーガーに変更)。

 これと同じく、F9Fは前期型の直線翼時代に、機首に回転銃座(旋回銃座ではない)を取り付けテストしています。いったい、何の目的でこのような機体を作ったのでしょうか。

 第2次世界大戦の終結以降、急速なジェット化が進んだのは、戦闘機に限らず爆撃機も同様でした。そのようななか、核兵器が登場したことで、それを搭載して自国上空へと襲来する敵の爆撃機をいかに迎撃するかが、将来戦の遂行上、重要視されるようになりました。

 ただ、目標に向かって自律飛行する空対空ミサイルは、いまだ完成の域に達しておらず、戦闘機の主武装は依然として機関銃です。そこで、大戦中のプロペラ機同様、目標となる敵機に向けて機体をキチンと指向する必要がありました。しかし、彼我ともにジェット機だと、相対速度はプロペラ機どうしよりも格段に速く、照準を合わせる難易度はかなり上です。ちょっとでも照準方向がズレてしまうと弾はあらぬ方向へと飛んで行ってしまいます。

 もし、戦車の砲塔や爆撃機の旋回銃座などと同じように、機首の向きとは関係なく、銃口を目標へと指向できれば命中率は上げられるのかもしれません。当時、このように考えられたかは定かではありませんが、前述した問題に対するひとつの案として浮上したのが、敵爆撃機の動きを追える高速回転が可能な可動式銃座を戦闘機の機首に取り付けるというプランです。

 その銃座を、高性能なコンピューター制御の照準器と連動させれば、射撃精度および命中率の双方で劇的な向上が図れるというものでした。

斜め後ろ下にも射撃OK どういうこと?

 アメリカ海軍は1940年代後半、エマーソン社にこのような機能を備えた可動式銃座を発注。これを受け誕生したのが、エマーソン・エアロX17A回転銃座でした。この銃座は、1950年にF9F-3のシリアルナンバー122562号機に取り付けられます。

 X17Aの構造をわかりやすく説明すると、銃座は機首全体に及ぶほどおおきなもので、先端にはレーダーが置かれています。そして、その左右に12.7mm機銃が上下2連銃架で左右に1基ずつ、計4門備えられていました。

 左右の2連銃架は、銃座本体に刻まれているスリットに沿って可動し、機首正面方向を0度とした場合、上下それぞれ120度の範囲で指向することができました。つまり、上下合わせると前方240度の範囲で動かすことができ、機首正面を90度とすると、上下ともわずかに後方30度ずつ銃口を向けることができたのです。

 この上下の指向に加えて、取り付け部の機首部分から先の銃座全体を、機体の前後軸に対して360度回転させることが可能でした。このような動き方をすることで、進行方向であれば、ほぼ全空域の狙い撃ちを可能にしていました。

 なお、銃座の駆動は油圧電動式で銃架は秒速200度、銃座全体は秒速100度のスピードでそれぞれ作動し、パイロットはコンピューター連動のレーダー照準器に敵機を捉えて引金を引くだけで、弾を命中させることができたそうです。

そのため理論上は、X17Aを装備した戦闘機は、上下左右どこでも任意の位置から、偏差を気にせず敵機に対して銃撃を加えることが可能でした。

 しかし、X17Aは採用されませんでした。というのも、レーダーなど照準機器も含めた銃座システム全体が重すぎて、とても実用的とは言い難かったからです。

 その結果、アメリカ軍では戦闘機の主武装に、一斉発射を行う無誘導のロケット弾を用いるようになっていきます。無誘導なのを数でカバーし、面で制圧しようという考え方です。また、その後、目標に向かって自律飛行する誘導可能なミサイルが実用化されたことで、このような可動式銃座は陽の目を見ないまま姿を消しました。

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