
高速道路で発生した大規模ETCシステム障害。NEXCO中日本は障害発生時の利用者に対して料金の支払いを求めていますが、多くが応じていません。高速道路行政を担う国交省は、今回の障害で利用者が刑事責任を問われる可能性を否定しました。
道路整備特別措置法で定める「不正通行」には当たらない
2025年4月6日未明にNEXCO中日本の高速道路で発生した大規模ETC障害は、復旧までに約38時間を要して、利用者に大きな混乱をもたらしました。
同社は通行料金の決済ができないETC車に対して、当初は料金所の一般レーン(有人レーン)へ通して支払いを求めていましたが、発生から14時間後、ETCレーンの出口に設置された開閉バーを開放。利用者の申告による事後清算を求めています。
通行料金を支払わない利用者には、利用約款に基づく支払い義務のほかに、道路整備特別措置法に基づく「不正通行」の規定が定められています。「免れた通行料金に加えて、免れた通行料金の2倍に相当する割増金を支払わなければならない」という内容です。
これについて、特措法を担当する国土交通省有料道路課は「同法上の不正通行には当たらない」、という見解を示しました。
同法は料金未払い者に対する割増し請求だけでなく、「30万円以下の罰金に処す」という刑事罰が定められています。有料道路課が言及する「不正通行」とは、この刑事罰の対象となる未払い通行のことです。
NEXCO中日本の縄田 正社長は、4月10日に国交省を訪れ、中野洋昌国交相にETCシステム障害についての説明を行っています。その中で縄田氏は、同社主導で有識者を含めた(システム障害の)検討委員会を立ち上げて、NEXCO3社で大規模障害に対応するマニュアルを作成することを報告しました。
中野氏は11日の閣議後会見で、同社への指示を明らかにしました。
「私からはスケジュール感ということで、4月中には事案の原因と当面の対策をまとめ、6月中をめどに再発防止策や広域的なシステム障害の危機対応マニュアルを作成して、報告していただきたいと指示した」
4月末には大型連休の通行量増加が控えています。対応マニュアルの策定は当然ですが、システム障害に起因する不測の渋滞が続いても、なお通行料金を支払う責任が生じるのか、というのが、利用者の最大の関心事です。
NEXCOは「お支払いを」
NEXCO中日本の供用約款には「高速道路の設置又は管理に瑕疵があったために利用者に損害を生じたときは、会社は、これを賠償する」(第10条)という条項があり、さらに利用者側にも責任がある免責事項も定めています。免責事項があれば、同社による賠償を減額するという内容です。ただ、この中にシステム障害を免責する規定はありません。9日の同社会見で縄田氏は供用約款に基づき請求すると説明しました。
これについて、中野国交相は11日の閣議後会見の中で言及しています。
「約款上の取り扱いで(高速道路会社の)賠償になる原因が何かということで、瑕疵(かし)があるときとなっている。一般的には道路構造物の損傷など物理的な瑕疵を想定して賠償するという項目があると聞いている(というNEXCO中日本の説明)。原因究明を進めているが、広域的なシステム障害時の料金の取り扱いについて明確な規定がないことも課題と認識している。そういう意味で広域的なシステム障害時のマニュアルを早く作成するようにと指示した。有識者委員会では料金の取り扱い、瑕疵について、しっかり整理していくものだと考えている」
また、合わせて有料道路課は、次のような見解を示しました。
「約款上は(賠償において)システム障害が除かれるという明確な書き方はしてない。繰り返しになるが、NEXCOが想定しているのは道路構造物の損傷による瑕疵。具体的な取り扱いは、今後の有識者の検討委員会で含めて議論されると聞いている」
結局、NEXCO中日本の料金請求の根拠は、約款になくても同社の解釈次第、ということになるのでしょうか。供用約款に基づき請求を続けるとした同社にも、根拠となる条文について尋ねましたが、現状で回答はありませんでした。