日本は「“伸びしろ”がある」 新・豪華客船「飛鳥III」まもなく登場 クルーズ市場は“急拡大”するか

日本初となるLNG燃料クルーズ船「飛鳥III」のデビューが近づいています。日本を代表するクルーズ船の新型は、どのような船なのでしょうか。

34年ぶりの新造船で船隊が「純増」

 日本郵船グループの郵船クルーズが発注した日本初となるLNG(液化天然ガス)クルーズ船「飛鳥III」(5万2265総トン)が、2025年7月20日にデビュー。もうすぐ、造船所から引き渡しが行われます。日本を代表するクルーズ船の新型は、どのような船なのでしょうか。

 郵船クルーズが新造クルーズ船を導入するのは34年ぶり。これは既存船「飛鳥II」(5万444総トン)の置き換えではなく、「飛鳥III」を加えた2隻体制への拡充です。

 郵船クルーズの遠藤弘之社長は「これまでクルーズ船に縁のなかった、新規のお客様を開拓することが大変重要だ。まずはクルーズ船を余暇や旅の選択肢の一つとして、皆様に考えてもらえることが大切だと思っている。2 隻体制となることで多様なクルーズのニーズに寄り添え、これまで以上に豊富な選択肢を提供することができる」と期待感を示しました。

 ドイツの造船所マイヤー・ベルフトで建造が進められていた「飛鳥III」は、3月2日に艤装岸壁を離れ、タグボートの支援を受けてパペンブルグからエムス川を下り、海へと出ました。現地で試運転を行った後、マイヤー・ベルフトから正式に引き渡されます。

 日本への回航は6月を予定しており、横浜港大さん橋への初入港時には大きな注目を集めることになるでしょう。

入魂の「展望大浴場」

「飛鳥III」の最上級クラスとなるペントハウスはロイヤルとグランドの2タイプを用意。両タイプ共にリビングとダイニングを備えた約100平米の広々とした客室で、「ロイヤルペントハウス」では専属の、「グランドペントハウス」では要望に応じてバトラー(執事)サービスが提供されます。ペントハウスやスイートに限らず、381ある客室の全てがプライベートバルコニー付きというのも「飛鳥III」の特長です。

 日本船ならではの設備として12デッキの船首側には「グランドスパ(展望大浴場)」が置かれました。ここから大海原へ向かって航行する「飛鳥III」の針路を眺めながらゆっくり湯船に浸かることができます。このほか「洋上のリゾート」と題して11デッキには「アルバトロスプール」や「プールサイドバー」、眺望の良い「ビスタラウンジ」も用意されています

「飛鳥III」で新たに登場するショーを見ることができる6デッキの「リュミエール シアター」では最新のデジタル技術を駆使し、映像とダンスを融合した新感覚のイマーシブ(没入型)パフォーミングアーツを予定。もちろんカジノも設けられていますが、「飛鳥III」は日本船籍なので、チップやコインを現金や記念品に交換することはできません。

きょうはフレンチ、明日は割烹、自由自在

 レストランは予約制の「ノブレス」(フレンチ)、「アルマーレ」(イタリアン)、「海彦」(割烹料理)に加えて予約・席料不要の「フォーシーズン・ダイニングルーム」を設けており、その日の気分でお好みの場所と時間、料理を選ぶことができます。

 多国籍料理の「エムスガーデン」は世界を巡ってきたシェフが手掛ける各地の名物料理を味わうことができます。ディナータイムは一部が「グリルレストラン パペンブルグ」となり、炭火焼グリルを後部オープンデッキで焼き上げるといったライブ感あふれる演出も行うとのこと。店名の由来は建造ヤードのマイヤー・ベルフトがある「パペンブルグ」と、そこを流れる「エムス川」からです。

2隻体制=「労力2倍」になっては意味がない

 郵船クルーズの西島裕司副社長は「コロナ禍を乗り越えているので、ようやくここまで来たという思いはもちろんある。ドイツで日本籍船を建造するということ自体が大きなチャレンジ」と話します。

 また、「飛鳥II」と合わせて2隻体制となることについて「今までと労力が倍になっては意味がない。社内のリソースを効率的に活用していくかということは考えている。燃料や水、食料をまとめて買うなどスケールメリットを取れるところは取っていきたい」と述べました。

 郵船クルーズはオリエンタルランドが2028年に就航を予定している「ディズニークルーズ」の運航に向けた業務提携を結んでいます。西島副社長は「(オリエンタルランドの参入は)クルーズへのお客様が増えるため、当然そういったところでシナジーがある。実際にお手伝いする運航や船舶管理、船員のマンニングのところでスケールメリットは取れるかもしれない」の認識を示しました。

 一方で課題となっているのはLNGの燃料供給です。東京湾内にはバンカリングサービスを行うLNGバンカリング船が就航していません。これについては「横浜が母港なので、横浜でLNGの補給をしたいという風に思っている。『Truck to Ship』方式で行うことを横浜市など関係各所と調整している」と明かしました。

 LNGの燃料供給は、バンカリング船から船に直接供給する「Ship to Ship」方式が効率的とされ、タンクローリーを何台もつなげて陸上から供給する「Truck to Ship」は外航の大型船には不向きです。「飛鳥III」でもその方式を採らざるを得ないのは、バンカリング船の整備がなかなか進まない状況を示しているといえます。

「まだ伸びしろがある」日本

 郵船クルーズの西島副社長は「日本のクルーズ人口が少ないということは、まだ伸びしろがある」と力を籠めます。「実際『飛鳥II』の販売は好調だ。クルーズ船は敷居が高いというイメージがあるが、いちど乗っていただくことで、良さを理解できると思う」

「飛鳥III」は横浜港を拠点として、“オープニングクルーズ”では国内30か所に寄港します。7月20日のデビュー初航海は横浜発着で函館と小樽を巡るプランで、8月15日からは日本一周クルーズへと向かいます。これに加えて博多発着で韓国・済州島に寄港するプランや、神戸発着で函館、釧路、仙台を巡るプランもあります。

 さて、初代の「飛鳥」はリプレースに伴って売船されましたが、「飛鳥II」は今後も現役にとどまり続け、「飛鳥III」の就航に伴って価格やサービスのレベルを変えることも想定していないといいます。III就航後の「飛鳥II」では、「お客様の好みに寄り添う旅」をコンセプトに、さまざまな日本の魅力を堪能できるテーマ型クルーズを展開していく予定です。

 熱田健二常務は「飛鳥IIで培ってきた、おもてなしの心は継続していくが、食事やエンターテイメント、そして寄港地の過ごし方といった多くの選択肢を、お客様が自由自在にデザインする選択型のクルーズというのを提供していきたい」と話しています。

「飛鳥III」のデビュー後は横浜港大さん橋で「二引」のファンネルマークを描いた客船が並ぶ姿が見られるようになります。スケジュールによると、8月1日17時、両船が同時に大さん橋を出港することになっています。

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