「ブルートレインの機関車を再現しました」←コイツで!? にじみ出る“コレじゃない感”に鉄道ファンがグッとくるワケ その狙い

大井川鐵道が自社所有の電気機関車を「国鉄色」、それもブルートレインの牽引機に徹底的に似せて塗り替えました。しかし、明らかに“国鉄じゃない感”も滲み出ています。これこそがファンの心をがっちり掴むポイント。狙いを聞きました。

ブルートレイン色の機関車、それは明らかに“小さい”

 大井川鐡道が2025年3月30日から、同社所有の電気機関車E31形4号機(以下、E34)の塗装を「国鉄色」に変更し営業運転を開始し、鉄道ファンの間で大きな話題を呼んでいます。さっそく実物を見ると、ファンが“夢見た”であろう光景が現実になっていました。

 同社の大井川本線の起点となる金谷駅は、東海道本線の駅。そして東海道本線には、かつて青い車体に白い帯を巻いた夜行寝台列車「ブルートレイン」が走行していました。ブルートレインを牽引していたのは、青とクリーム色に塗られた電気機関車です。大井川鉄道ではこのブルートレインを再現すべく、産経新聞社の支援のもと、E34を用いて国鉄色を復元しました。

 モチーフとなったのは、国鉄の直流用電気機関車「EF65形」。しかも、ブルートレインや旅客列車を牽引するために生まれた、誇り高き500番台の「P(Passenger)形」です。

EF65P形は、1965(昭和40)年から1978(昭和53)年頃にかけて、東海道本線・山陽本線を駆け抜けたブルートレイン「富士」「さくら」「あさかぜ」などを牽引。ヘッドマークを掲げ、美しく整った寝台客車の先頭に立つEF65 P形の姿は、往時の少年たちを熱狂させました。

 ところで今回、鉄道ファンが興奮した理由は、塗装変更に注目が集まっただけではありません。EF65 P形のカラーリング復元は、まるで鉄道ファンが思い描く想像(妄想?)や夢をそのまま具現化したようなプロジェクトだったからです。

E34は、もともと西武鉄道が保線用に製造した小型の機関車です。「西武の電気機関車を国鉄色に塗ったらどうなるのだろう?」と思ったことがある人は、少なからずいるはず。

さらに、国鉄色をまとったE31形を見て「まるで自由形機関車だ!」と感じた人も多いのではないでしょうか。筆者も、そう思ったひとりです。

 自由形機関車とは、鉄道模型に存在するジャンルのひとつで、車両の全長を大幅に短縮した姿が特徴です。基本的には実在しない車両を模型化していましたが、リアルに存在する電気機関車EF66形をデフォルメした自由形「ED66形」「EB66形」などのほか、現在も多種多様な自由形機関車が流通しています。

 EF65 形の台車は3つ(B-B-B配置、軸が6本)で全長は16.5mですが、E31形は台車が2つ(B-B配置で軸が4本)で全長約11mと長さがグンと短いことから、EF65 P形と同じ配色のE31形は、まさにEF65 形をデフォルメしたような、かわいらしい自由形機関車に見えるのでした。

あ、あり得ない編成だ…!

 国鉄色に塗り変えられたE34は、3月30日の新金谷14時29分発103列車「かわね路3号」から補機運用に就いています。

 そこで筆者は4月2日に大井川鐵道を訪問しました。まずは新金谷駅へ。家山駅を11時10分に発つ新金谷行きSL急行「南アルプス2号」をお出迎えです。

 これまで大井川鐵道のSL列車は、下り列車が終点に着くとSLを逆向きに付け替える「機回し」を行ない、上り列車の先頭もSLを連結していましたが、現在は、上り列車は補機の電気機関車がそのまま客車とSLを牽引する「EL急行」として運転されています。そのため、新金谷駅に来るSL列車の先頭は、電気機関車となるのです。

 やがて遠くから国鉄色の機関車を先頭にした列車がやってきました。E31形の前面には、2分割の前面窓やオデコに2つの前照灯を構えており、貫通扉を持たないEF65 形と多くの共通点が見られることから、遠目ではほんとうにEF65 P形が走ってくるよう。目の前を過ぎて駅に入っていくE34は、思った以上にブルートレイン牽引機の貫禄を持っていました。お見事!

 それを実現しているのは、細部の徹底したこだわり。直流電気機関車、しかも特急色そのものの色味と塗り分けを再現しているだけでなく、車体前面には「ED31 4」の切り抜き文字も貼られています。正しい形式はE31形ですが、国鉄の電気機関車に見せるため、軸数4=Dを付与して、架空の機関車「ED31形」に仕立ててあるのです。

 EF65 形には備わるものの、本来のE31形が有していない「追加装飾」も見ものです。運転席窓下にある、機関車がどこの機関区に配置されているかを示す「区名札」、前面の銀の飾り帯、車両の前後表示である「エンド標記」まで貼るというこだわりようです。鉄道ファンが色めき立つのも無理はありません。

 この日はその後も、桜が咲き誇る美しい里山を駆け抜けるE34の姿を追いかけました。E34の次位に連結される、日本ナショナルトラストが所有する往年の特急用三等客車「スハフ43形」はブルートレインと同じ配色ですが、実際にブルートレインとしての運転やEF65形に牽引された歴史はなく、さらにそれ以外の客車も国鉄時代には存在しなかった「トーマス用」のオレンジ色で組成されていたため、列車全体がまさしく「自由形」の世界。鉄道模型で楽しむような編成がリアルで見られる楽しさに、ワクワクが止まりませんでした。

大井川鐡道が語る「ファンの世代交代作戦」

 大井川鐵道はブルートレインの牽引機を復元した経緯を次のように語ります。

「塗装変更は弊社の鳥塚社長(編集部註:鳥塚 亮氏)のアイデアです。EF65形とE31形の外観やクリーム色が似ているので、塗り替えたらどうなるだろう? と思っていたとのことです。そこで、弊社社長とつながりのある、産経新聞社デジタルビジネス本部メディアマーケティング部次長 久保木善浩様にその話をしたところ、産経新聞社からご支援をいただき、国鉄色への塗装変更を行うことができました」

 反響も大きいようで、大井川鐵道のSNSも大バズりとのこと。そして今回のプロジェクトの「ターゲット」についても、話を聞くことができました。

「弊社はSL列車を長年走らせておりますが、昭和40年代で現役運転を終えたSLを懐かしんでくださる年齢層は60代以上となりました。そこで、それより後の世代の方々にも大井川鐵道を親しんで頂きたい、という思いから、SLよりも後に活躍した車両を走らせることになりました。ブルートレインは、30代以上の方なら親しみや見覚えがあるのではないでしょうか」

 東京を発着するブルートレインの特急列車は、EF65 P形や、その代替機として充当されたEF65 PFが EF66形にバトンタッチする1985(昭和60)年まで走っていました。もはや40年以上前のことで、あの頃のブルトレ少年も、今や40代後半や50代を迎えています。

筆者は53歳なので、小学生時代、EF65形が牽引するブルートレインが掲載された「コロタン文庫」や「ケイブンシャの大百科」などを読みふけっていた世代です。目の前を走っていく国鉄色の機関車は、あの時代を思い出させるタイムマシンのようでした。

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 大井川鐵道は1976(昭和51)年からSL(蒸気機関車)の動態保存を行い、SL列車の日常的な運転を行っているほか、大手私鉄から譲渡されたバラエティ豊かな電車も運用しており、「動く鉄道博物館」とも呼ばれています。この度、新たに国鉄色のE31形が加わったことにより、動態保存鉄道としての魅力はさらにアップしました。今後もアッと驚くような車両を走らせてくれるに違いありません。

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