
ミサイルの有無によって大きく左右される空中戦の勝敗。それなら空対空ミサイルを多数装備した爆撃機があれば、空戦では無敵のように思えます。しかし、実際はそのような軍用機はどこの国も作りません。なぜでしょうか。
爆撃機に無数の空対空ミサイル載せれば最強なんじゃ?
現代における空中戦、もっというと戦闘機の武装を考えた場合、もはやミサイルなしで戦うことなどあり得ません。それだけミサイルは空対空戦闘に不可欠な武器と言えます。
そのようななか、現代戦であれば「大型の軍用機に大量の長射程空対空ミサイルを搭載すれば無敵なのではないか?」と考えたことはないでしょうか。戦闘機のような小型機ではなく、大量の爆弾や巡航ミサイルを搭載可能な戦略爆撃機や、はたまた重量物を機内収容できる大型輸送機などに膨大な数のミサイルを装備すれば、敵の航空機を容易に迎撃できそうに思えます。
そう考えるのは決して不合理ではありません。しかし、現実にはそのような設計思想の軍用機は存在しません。なぜ、どの国もそのような機体を開発しようとしないのでしょうか。
そもそも、実際の空戦は極めて短時間で勝敗が決する世界です。ミサイルがメインウエポンの現代戦では、敵機を発見し、迎撃、ミサイルを発射、回避するという一連のプロセスはわずか数十秒から数分の間に行われます。そしていかに先制攻撃するかが勝敗を分けます。
大型機が戦闘機に対して決定的に劣るのは、この「瞬間的な対応能力」にあります。戦闘機は機動性を最大限に活かし、高速でターゲットを捉え、ミサイルを発射し、敵の攻撃を回避します。対して、大型機は基本的に直線的な飛行が主であり、大きく旋回するのには時間がかかります。仮に大型機に多数のミサイルを搭載したとしても、敵戦闘機が高速で接近し、回避機動を繰り返せば、それに対応するのは難しいのです。
また、ミサイルも「ただ発射すれば敵を撃墜できる」わけではありません。ミサイルは予想命中点に向かって発射されなければならず、そのためには発射母機が適切な姿勢を取る必要があります。戦闘機であれば、高い機動性を活かして瞬時に敵機の方向へ機首を向けることができます。しかし、大型機はその機動性の低さゆえに、適切な攻撃ポジションを取ることが極めて困難なのです。
鈍重だと敵の攻撃を回避するのが難しい…
さらに、ミサイルの有効性を最大化するには、発射前に加速することが望ましいと言えます。ミサイルは母機の速度を引き継ぐため、戦闘機のようにマッハ1以上で飛行しながら発射すれば、ミサイルはより長射程・高速度で飛翔します。しかし、大型機は一般に高速巡航が難しく、ミサイルの発射効率も低下してしまいます。
しかも、空戦においては、攻撃するだけでなく「防御する」ことも重要です。ミサイル攻撃を回避する手段としては、電子戦装備(ECM)やフレア・チャフといった対抗手段が挙げられますが、最も有効なのは「逃げる」ことです。戦闘機であれば反転し超音速で離脱するという選択肢を採ることができますが、やはり大型機では運動性能に制限があるため、敵の攻撃を回避することはほぼ不可能に近いでしょう。
戦闘機が戦場で果たす役割のひとつは、「航空優勢(制空権)」の確保です。高速で飛べる戦闘機は極めて広い範囲をカバーすることができますが、大型機ではそうはいきません。代わりに長時間前線に留まることは可能ですが、敵の攻撃を回避することが難しいため、前線に留まること自体が大きなリスクとなるでしょう。
結局のところ、大型機に大量のミサイルを搭載しても、戦闘機の代替にはならないのです。空戦では「敵の攻撃を回避しつつ、迅速に攻撃を仕掛ける」ことが求められますが、これは戦闘機のようなある程度高機動・高速な機体でなければ実現できません。ミサイルがどれほど進化しようとも、それを運用する機体が適切でなければ意味がないのです。
過去に「ミサイルキャリア」的な航空機の構想が提案されたこともありますが、以上の理由によりいずれも実現には至っていません。