偽トヨタに偽シビック、偽アウディ…アメリカで“珍車”が増殖中!? 「偽装」余儀なくされるオーナーたち

「TOYOTA」と書かれた一風変わった外観のピックアップトラックや、ガソリン車なのにフロントグリルがないホンダ・シビックなどの“珍車”がアメリカで増殖中。これらは違法なコピー品というわけではなく、その車種に“なりすまして”いるのです。

マツダの“未発売”の車名も?

 屋根がとがった独特な形状のピックアップトラックの後部のテールゲートに「TOYOTA」と記してあったり、実在しないはずのホンダ・シビックのバッテリー式電気自動車(BEV)が走っていたり――思わず二度見してしまう“珍車”の目撃情報が、2025年3月現在、アメリカで相次いでいます。ドイツのアウディのエンブレムである4つの輪「フォーリングス」が付いた「A5」かと思いきや、テールランプが見慣れない形をしている場合もあります。

 これらは知的財産権の侵害が問題化している中国のコピー品というわけでも、開発中の次世代モデルの走行試験というわけでもありません。アメリカの電気自動車(EV)メーカー、テスラのクルマに付いていたロゴを外し、他のメーカーに“なりすまして”いるのです。

 トヨタ自動車のモデルにふんしたピックアップトラックは「サイバートラック」、ホンダ・シビックやアウディA5になりすましていたセダンは「モデル3」でした。

 西部ワシントン州で目撃された「モデルS」は後部にマツダのロゴを取り付け、セダンなのに、SUVに付けられている「CX」の名を冠した「CXs」なる“未発売”の車名を掲げています。「スカイアクティブ・テクノロジー」のバッジも取り付ける念の入れようです。

トップのトランプ政権入りで標的に

 アメリカのテスラの所有者らは、なぜこのような“偽装”を迫られているのでしょうか。そのヒントとなるのが、インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムで2枚1組7.49ドル(約1120円)にて売られているステッカーです。改造をする代わりに、テスラ車のバンパーなどに貼り付ける目的で販売されています。

 ステッカーには「イーロンがイカれていることを知る前に買ってしまったんだ」と記されています。類似の「自衛ステッカー」は他にもあります。

 経済誌フォーブスによると世界一の富豪であるテスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が、多くの国民の怒りを買い、テスラ車にいたずら書きをしたり、放火されたり、タイヤを盗まれたりする被害が多発しているのです。そこで、マスク氏の行為に共鳴しているわけではないと弁明して許しを請う“免罪符”のステッカーが登場しています。

 2024年の大統領選挙で当選した共和党候補のドナルド・トランプ氏の陣営に少なくとも2億7400万ドル(1ドル=150円で411億円)を献金し、第2次トランプ政権で新設された「政府効率化省(DOGE)」のトップに就いたマスク氏。約230万人いる連邦政府職員のうち10万人を超える解雇を打ち出し、途上国への人道支援などを手がける国際開発局(USAID)の閉鎖を迫るなどの荒技を進めてきました。

 また、トランプ氏の復帰就任初日の2025年1月20日に首都ワシントンで開かれた祝賀集会でマスク氏は、右手を上向きに力強く伸ばすジェスチャーをして「ナチス・ドイツの敬礼をした」などとネット上で物議を醸しました。マスク氏は2月のドイツの連邦議会(下院)選挙では、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持を明言しました。

 こうした行為が反発を呼び、「ナチス過激主義に反対する学生たち」と称する団体が、テスラ車の所有者に手放さなければ標的にすると警告しました。どの世帯がテスラ車を持っているのかがネット上でさらされたり、ナチスを象徴するかぎ十字のマークをテスラ車に落書きしたり、タイヤが盗まれたりするといった被害も相次いでいると報じられています。カジノで有名な西部ネバダ州ラスベガスにあるテスラのディーラーでは2025年3月、止まっていた車数台が放火される事件も起きています。

 SNSには、テスラ車の窓ガラスに「卵を投げつけてやりたいけれども、卵も最近は高額だからね!」と張り紙をした写真も投稿されています。

「テスラ離れ」が世界で加速 どうなる?

 マスク氏に反発したテスラの不買運動も広がっており、ドイツ連邦自動車庁によるとテスラの2月におけるドイツでの新車販売台数は、前年同月比76%減の1429台に落ち込みました。フランス、イタリアではそれぞれ55%減、ポルトガルも53%減りました。

 一方、アメリカは5.6%減の4万3650台(ケリー・ブルー・ブック調査)と減少率が限られたものの、今後は「テスラ離れ」が加速するのは確実です。テスラを手放したがっている所有者が殺到し、中古車市場での価格が下がることでリセールバリュー(再販価値)が低下しているため、魅力が失墜して新車販売台数も落ち込む悪循環に陥ると予測されます。

 ロイター通信によると、自動車情報サイト運営会社エドマンズが集計した2025年3月1~15日のアメリカでの中古車下取り件数のうちテスラ車は全体の1.4%となり、3月は月間ベースで最高となる見通しです。昨年3月はわずか0.4%でした。

 テスラのあるディーラー関係者は「本日は1日だけで5人の顧客が下取りに来た。ひとりは『売って損が出ても構わない、(破壊行為を受けた場合にカバーする)自動車保険が適用されなくなる前に手放さないといけないんだ』と悲鳴を上げていた」と証言しました。

 他人のテスラ車を破壊して摘発されれば、器物損壊といった罪に問われることは論をまちません。他方で大量の政府職員解雇を指示し、生活に苦しんでいる人たちへの支援に背を向けるマスク氏が世界中で反感を買っていることは厳然たる事実で、アメリカのテスラの所有者らを疑心暗鬼にさせています。

テスラオーナーはクルマを「世を忍ぶ仮の姿」に変装させてしのぐか、“免罪符”とすべく「自衛ステッカー」を貼り付けて理解を求めるか、それとも手放すのか、苦悩が当面続きそうです。

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