
北陸新幹線の敦賀~新大阪間は、小浜市や京都駅付近を通過する「小浜・京都ルート」に決定したものの、地下水への影響が懸念され着工していません。「新幹線を通す」ことを前提とした場合の代替案を考えてみました。
米原ルートへ再考との声も
北陸新幹線の未完成区間である敦賀~新大阪間は2016(平成28)年12月、福井県敦賀市の敦賀駅から小浜市、京都駅付近、JR学園都市線の松井山手駅(京都府京田辺市)を経由する「小浜・京都ルート」に決定しました。これを受け、鉄道建設・運輸施設整備支援機構は翌年より調査を始め、2024年に各駅の位置とルート案を発表しました。
しかし、京都市内をトンネルで新幹線が通過することに、京都仏教会などが「地下水が減少する」として建設反対を表明。2025年3月現在も着工していません。このため、石川県などで「米原ルート」に再考すべきという動きが見られます。
米原ルートとは、敦賀駅から東海道新幹線が通る米原駅(滋賀県米原市)までの約50kmを結び、北陸新幹線と東海道新幹線を結ぶ案です。建設距離は小浜・京都ルートの150kmより短く、早く安価に建設できるというのが推進派の主張です。
なお、東海道新幹線を運行するJR東海、北陸新幹線を運行するJR西日本、そして滋賀県のいずれも米原ルートに反対しています。JR東海とJR西日本は「東海道新幹線と北陸新幹線の直通運転は困難」とし、滋賀県は「北陸本線が並行在来線となるうえに、県内にメリットがない」ことを理由に挙げます。
筆者(安藤昌季:乗りものライター)も米原ルートの利点は少ないと考えます。直通できないなら、現状の在来線と新幹線との乗り換えが敦賀駅から米原駅に変わるだけで、時短効果はわずかです。
リニア中央新幹線開通後に東海道新幹線に直通可能という論者もいますが、これもデメリットが大きいと筆者は考えます。仮に直通列車を設定すれば、北陸新幹線は東京方でJR東日本管内も走行するため、ダイヤ乱れ時には西九州新幹線を除く全国の新幹線に影響が及ぶでしょう。特に東海道新幹線の米原駅付近には、冬季にダイヤ乱れが頻発する関ケ原もあります。
京都市内を回避してはどうか
もっとも、東海道新幹線は現状でもダイヤが過密であることから、そこへ他路線が乗り入れてしまうと、自由なダイヤ設定も増発もできなくなるでしょう。北陸新幹線のJR西日本区間の輸送人員は、東海道新幹線と比較して6%に留まります。名古屋・京都~熊本間でさえ直通列車が設定されないなか、北陸新幹線が入り込む需要はないと思われます。
また、米原ルートなら早期開業するという意見にも疑問があります。そもそも小浜・京都ルートはルート調査に7年をかけています。米原ルートは工期を10年と見積もりますが、仮にルート調査に5年かかれば計15年です。そして、米原ルート実現の利点がないJR西日本や東海、小浜市、滋賀県など関係各所を納得させるのは1年や2年では無理でしょう。実現するには多額の補償や法改正も必要だからです。合意形成に5年かかるとした場合、すでに計20年が経過することになり、小浜・京都ルートの工期20~28年と大差なくなります。
筆者は、原案である小浜ルートをもとに一部変更した案を提案します。敦賀駅から小浜市、京都府亀岡市付近を経由し、京都駅には寄らずに新大阪駅へ向かうルートです。建設距離は小浜・京都ルートより27km短い123km。新大阪~敦賀間の所要時間は同ルートの46分に対し33分。並行在来線も発生しません。
小浜・京都ルートは「営業面で京都駅経由が必要」として決まりましたが、現状では京都駅を経由しない「桂川案」も有力で、これは京都駅まで乗り換え時間を含まずに6分。亀岡経由ルートの市内駅を仮に馬堀駅とすれば、京都~馬堀間はJR嵯峨野線で16分とで大差なく、しかも京都市内を通過しないため市への影響は抑えられます。
松井山手駅を経由できませんが、例えば大阪モノレールの終点・彩都西駅を接続駅とすれば、大阪府に利点があります。新大阪~彩都西間は現状41分かかりますが、新幹線なら数分。こうすることで、通勤需要を見込めるでしょう。
北陸新幹線を3線軌条化し新在直通どうよ?
小浜・京都ルートの変更以外も考えられます。JR 公益財団法人 鉄道総合技術研究所は1991(平成3)年から、「狭軌(在来線の線路幅)での250km/h運転実現のための技術開発」を掲げていました。狭軌で250km/h出せる新幹線が実現可能なら、最高速度260km/hの北陸新幹線内に狭軌を敷設して敦賀~富山間を3線軌条化し、敦賀駅付近にJR北陸本線と北陸新幹線の接続線を数km建設すれば、乗り換えを解消できます。
具体的には北陸新幹線・接続線内で250km/h運転、踏切のないJR湖西線で160km/h運転をすれば、敦賀駅通過と合わせて大阪~金沢間は乗り換えなしで2時間を切れると思われます。一方、名古屋~金沢間は乗り換えなしで2時間強。東海道新幹線→特急「しらさぎ」→北陸新幹線と乗り継ぐ場合の最速とほぼ同じです。
狭軌新幹線は在来線に直通でき、名古屋駅や大阪駅だけでなく、関西空港やUSJなどの最寄り駅からも直通できる利点があります。米原ルートで問題となる並行在来線や、JR西日本と東海での収益分配、ダイヤが乱れ時の全国波及も発生せず、建設距離は米原ルートの10分の1で済みます。ただし、新幹線と在来線のホーム高さが異なることや3線軌条の除雪、狭軌建設中の北陸新幹線運休などは課題となりそうです。
しかしそれでも、3線軌条化による新在直通は、「新幹線実現までのつなぎ」としては十分ではないでしょうか(3線化工事中は、並行する第3セクター鉄道に「サンダーバード」を復活させれば、混乱は最低限で済みます)。