「タイヤ+キャタピラ=万能車両」にならない!? 良いとこどり「ハーフトラック」なぜ半端モノに?

かつてアメリカ軍やドイツ軍などで広く使われた「ハーフトラック」という乗りもの。いまではすっかり姿を消しています。一見すると、履帯とタイヤ駆動の良いとこどりに思えるのですが、なぜ多用されなくなったのでしょうか。

日本語で表記すると「半装軌車」

 第2次世界大戦を描いた戦争映画で、必ずといってよいほど登場する軍用車両があります。それは、車体前部は普通の自動車のようなタイヤ駆動ですが、車体後部は戦車のような装軌式、すなわち履帯(キャタピラ)駆動になっている車両です。

 このような2種類の足回りを持つ車両のことを「ハーフトラック」といいます。もっとも、半分トラックだからハーフトラック(Half Truck)ではありません。このトラックは英語で履帯を意味する「Track」であり、後ろ半分の足回りが履帯だからこその「Half Track」です。日本語ではどちらも「ハーフトラック」という読みになりますが、スペルは異なるので間違えないようにしましょう。

 日本語では「半装軌車」と表記されるハーフトラックですが、第2次大戦後から徐々に減り始め、現在では軍用としてはほとんど見かけません。姿を消した背景にはどんな事情があるのでしょうか。

 ハーフトラックは、タイヤ駆動、いわゆる装輪式の車両では足を取られて走りにくい雪中や砂漠、泥濘、海浜などをスムーズに走れる車両がほしいという要望から生まれました。

 このアイデアを実現したのは、フランス人技師のアドルフ・ケグレスです。最後のロシア皇帝ニコライ2世の専属車両技師を1905年から務めていた彼は、北の大地特有の豪雪や泥濘の中でも快適な走行が可能な車両として、既存の乗用車やトラックを改造しカスタム・メイドのハーフトラックをロシア皇室に提供していました。

 ところがロシア革命が起こったためケグレスは帰国。フランスの各自動車メーカーにハーフトラックの企画を持ち込みます。その中でこれを大々的に採用したのが、フランスの老舗自動車メーカー、シトロエン社のオーナーであるアンドレ・シトロエンでした。同社はシトロエン・ケグレス・ハーフトラックを製造し、1920年代から30年代のいわゆる戦間期に同車を装備した辺境探検隊を結成。サハラ砂漠や中央アジアなど前人未到の地の調査を何度も主宰して、ハーフトラックの有用性を世界に知らしめたのです。

農業用や林業用としては今も現役

 一方、軍に目を転じると、これよりも早い第1次大戦の時点で、泥濘化した最前線の不整地において、戦車に追随して歩兵を運べる車両が求められていました。

 当初はこれに応えるべく、戦車のような装甲板を備える全装軌式の輸送車両が開発されます。しかし、戦車に似た構造のため、製造コストはあまり変わらず、それでいて機械的信頼性に欠け、メンテナンスも厄介という、なんとも使えない車両でした。

 しかしシトロエンによって広く世に出たハーフトラックは、自動車よりも製造コストはかかるものの、戦車のような全装軌車よりはるかに安く、すでに確立されていた自動車テクノロジーの延長線上で造られていたので、戦車とは違って運転もメンテナンスも容易でした。

 しかも戦車ほどの不整地走行性はありませんが、トラックなどの自動車と比べてかなり戦車に追随できる能力を持っていたので、折から脚光を浴びていた戦車を主体とする「機動戦」における兵員輸送や火砲の牽引に最適と判断されます。

 こうしてハーフトラックは、第2次大戦においてアメリカやドイツを中心に大量に用いられ、世界中で活躍しました。

 しかし戦後、全装軌式の車両技術がより進化し、廉価での量産も可能になると、ハーフトラックは中途半端な車両とみなされるようになります。なぜなら、全装軌の方が不整地走行性に優れるため、戦車などに追随する能力も勝っているうえ、大重量にも耐えられる足回りだからです。加えて、ハーフトラックよりもずっと堅固な装甲を施すことが可能であり、兵員室もオープン・トップではなく天井を設けて密閉式にできるため、乗員保護の面でも格段に優れていました。

 こうして、ハーフトラックは主役の座を降りることになり、第一線から姿を消していったのです。しかし、イスラエル国防軍や自衛隊では、20世紀後半まで一部で使用が続けられていました。また民間に目を転じると、既存の自動車車体をベースに比較的簡単に不整地走破性を上げることが可能で、かつドライバーも自動車を運転するのと同じ要領で操作できることから、農業用トラクターや林業用の運搬車両などで多用されています。

 過去には、ホンダが軽トラックベースのハーフトラックを発売していたこともありました。

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